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四人の高校生の場合 異界1-4.彼此岸の旅1-1.ひとりでない者

 味方がいない。そう彼は思った。彼は今、司令官役をしている。役というのは、その役割を誰も引き受けていないからだった。彼は、まとまりのない群集をなんとか秩序立てて動かそうとしていた。

 しかし群集は言うことを聴かない。各々武器を手に取って、いたずらに活躍しようとするが、どうしても、味方同士で足を引っ張ってしまう。というのも、でこぼこだらけの地面の上で、転がりながら、撃つからだ。そのような戦争をしていた。数は圧倒的に味方が上だった。数の論理で、敵を圧倒しようと押し寄せていた。戦勲は自分にあるものと、誰もが競い争っていた。

 歴史上、そのような圧倒的戦力の差を跳ね返した戦場はある。いくさは戦略がものを言った。どうして我が軍には司令官がいないのか。そう考えたが彼には無意味だった。なぜならこれは殲滅戦争、圧倒的弱者を挫こうと大勢が仕掛けた一方的な虐殺だから。大きな壁を倒してしまえばいい、ただ相手は押し潰される、そうした戦争だと思っていた。だがしかし、そのような大きな目的は果たして理念に、力強い意志になりえるだろうか。彼らは武器を手に持っていた。それは使ってもいいということだ。誰もが兵士になれる。誰もが殺人者に、なれる。

 誰もが英雄になることができる。そして誰もが、支配者に。誰もが弱者を苛められた。誰もが栄光に憧れた。そしてその誰もが標的になった。憎むべき敵として戦う相手から認められた。そして殲滅されるべきと。彼らは自分たちが多数と思い込んでいた。それはそうだ。攻め込んだ国は確かに彼らよりも、人口が少ないのだから。これは一対一の戦争だと思った。彼らは勝利を確信していたのだ。

 彼らは戦功を急いだ。そして自滅した。目の前に敵などいなかった。国境を阻む暗い霧を潜り抜けたら、出会ったのはその味方だったのだ。しかし彼らは自分たちが多勢だと思い込んでいる。民間人も、軍人も、等しく武器を持たされた彼らは、旗印まで身につけていなかった。敵と味方を区別するものを何も持ち合わせていなかった。そして、敵とは誰かと考えたことがなかった。彼は敵を誰とも思っていなかった。

 そんな彼らを彼は必死になってコントロールしようと努めた。誰か司令官役がいなければ、このいくさは負けてしまうかもしれないと、彼は直感した。彼は懸命に彼らに呼び掛けた。だが、混沌と化した群集は、自分が誰だか分からなくなって、発砲した弾が自分をかすめると、その相手に銃口を向けた。もはや勝ちなど意味がなくなっていた。彼らは誰もが敗者となる道を突き進み始めた。そして、彼らは今まで戦ってきた相手以上のものに駆逐されることになる。彼らが戦争を始めたのは、虐殺のためだった。弱者を苛めるためだった。それが今度は彼らが弱者となる。彼らは防衛した。自分たちを守るために、未知の相手から、撃ち込まれる爆弾を次々と撃ち落した。彼らはその戦争には勝利した。自分たちを守り切ることができた。


 気がつくと彼らは皆溶岩の滴る火山の真下にいた。天井から吊るされた逆さま火山が、怖い煙を吹きかけて、目の前を圧してくる。しかし彼らは酔い痴れていた。自分たちを守り切ることができた覚悟と疲労の戦争に、勝利したことを祝って。彼らは各々祝賀を述べた。ところが彼らの下に地面はない。彼らはどの土地も守り切ってはいなかった。彼らの魂をこそ侵略から防いだのだった。空っぽの空間に立ち、彼らは空しい慶事を祝った。彼らは世界から切り離されそこにいた。

 彼らの中に見える、遠間しげおの姿に、町田てつや、水野まちこ、そして飛石さすがの三人は気づいた。三人はしげおを含んだ群集を眺め下ろせるほど離れた、ちゃんと地面のある所に固まって並んでいた。そして彼らは今にも火山が上から落ちそうだということに目がいった。山は、さっきまでその溶岩を逆巻きに吸い込んで暗い空っぽの空間からひたすらに火を呑み込んでいたのだが、その火からなんとしげおを含めた群集が生まれたのだ。火はなくなった。吸い込むべき焼け付く岩を断たれて、火山は、逆さになった地面から巨体を乗り出して、下向きに大きく突き出てきた。さすがたちは途端に叫んだ。山の下にいる者たちはどうなるだろうと視線を移した時、真下の連中が柔らかくなり始め、次々とぺしゃんこに潰れていったからだ。まるで元々水飴か何かだったように。しげおも身体を潰し、周りの群集と互いに混ざり合った。しかし彼らは元々自分が何者か分からなくなるような人々だった。それはただの群集だったのだ。一人びとりが、個々の意識というものをなくし、ただ持たされた武器でもって敵を討ち果たそうとした。しかし戦況が引っくり返り、今度は自分たちが攻められる番になると、必死で抵抗して、自身を守り抜いた。彼らは攻めて、彼らは守られた。だが水飴のように一様に溶けた。そして一つになりつながった。彼らは棒状になった。伸びて、細くなって、麺のように柔らかく切れやすい一本の紐になった。そして彼らは解体された。まちこやてつやの見ている前で、細長くなった彼らの集合は分断された。細かく切られ、一つ一つがほんの小さな粒になった。そして、茹でられた。火山の真下の巨大な空間にぐつぐつと煮える湯が沸き上がり、そこに入れられたのである。

 パスタにでもなろうかという彼らは、湯の表面を騒がしく泳ぎながら、なおもその中で細切れになっていった。それこそ微粒子になるまで寸断されていって、ついには見えなくなった。粒にもならない。それこそ原子以下の、色も付かないものになった。だから彼らがそこにいるのかどうか、もはや分からなくなった。溶けたのだろうが、溶けてもいない。溶けるということは、他の粒子と混ざり合うということだから。しかし、彼らはもうそこにいないようだった。

 ゆっくりと、この不可思議な光景から目を上げ、てつやとまちことさすがの三人は我を取り戻した。彼らはようやく記憶を回復した。互いに、同じ学校に通い、共にサイクリングに臨んでいた記憶を。いきなりしげおがそこにぽんと出現した。何もない空間から、三人の目の前に、急に飛び出してきた。三人は驚いた。しげおはきょとんとしていたが、てつやたちを見て、ほっとした表情になった。

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