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四人の高校生の場合 彼此岸の旅1-2.非対称の丸

 逆さ火山は火を回復した。元のように、その下から溶岩を吸い出している。その溶岩はどこから現れてくるのかは分からない。地底世界に広がる地面は、火山の下に円状に巨大な穴を空けていて、それがどこまで深いか窺い知れないからだ。

「おれたち……トンネルに入ってたはずだったよな……?」

 てつやが信じられない気持ちのまま三人に言った。

「そうだよ。でも、不思議な夢のあと、ここに飛ばされた」

「あたしもそうだった」

 まちことさすがが順番に呟いた。てつやは自分の顔に確かに眼鏡が乗っているのを確認した。

「どうして……?」

「戻れるのかな」

 まちこが不安を口にした。

「戻れるといいけど」

「そうだな。これが夢の中と祈ってるけれど」

「夢の中なの、これ?あたしたち会話してるんだよ」

 ふーん、と鼻から息を吹きながら、しげおがてつやを突っついた。

「何するんだよ」

「実体かなって。確かに実体だ」

 四人はそれぞれの体を自分で触った。現実と同じ感触がちゃんとあって、そのことがかえって、彼らにより大きな衝撃を与えた。

「どうする、これから?」

「そうだな。トイレが心配だな。あと水と食料も」

「そんなこと心配なの?あたしたち帰れないかもしれないんだよ?」

「ああ、まあ、そうだけど、それより当面の命が保証されるかどうかがおれは気になって」

 眼鏡のてつやはいたって冷静だった。もしかしたらそれはゲームの中でサバイバルなどやっていたからかもしれないが、これはそれと似たシチュエーションだと思った。ゲームも、何もないような所から始まって、水や食料など、自分の手で確保していく必要があったのだ。

 しかし、見渡すかぎり、ここは暗い地下世界で、地面の上に何も生き物はいない。生物はおろか、草木もなく、殺風景な石と岩がただ茫漠と広がっている。てつやは腕組みして首をひねった。みんなが共同して見る夢なんてあるのだろうか、と考えた。そのような例が、どこかの本に載っていたかもしれないが、今ここで、四人がその夢を見ることになった条件は一体何だろう?と、彼は自分の頭で次々と考えを巡らした。

 そのような考えの巡らしを他の三人は嫌った。各人部活のエリートでもあったので、体の動かし方をこそよく心得て、彼らの頭はその体についてくる二の次のものだった。それに、彼らは心技体をよく知っている。特にまちことさすがは、弓とボクシングという、各々個人種目だったこともあって、心の整えに精通していなければならなかった。だから、さすがは素早く身体を動かしたがった。運動さえしていれば、自ずと心は整えられてくることを、よく知っていた。

 さすがの目の前に、ボールが浮かんだ。急に下の方からぽこっとそれは飛び出し、持ってくれと言わんばかりに宙に浮いた。地面から出てきたのかどうかも分からない。さすがはそれをつかんだ。思わず手が出たのだが、両側から、手を出し、がしっと、何も考えずに球体を挟んだ。すると彼女は慌てて手を引っ込めた。その球体は、なんともいえないひずみを持っていたからだった。完璧な丸ではなく、よく見えないでこぼこがあり、それが絶妙に、自分を完璧な丸ではないと主張する本当の非対称性となっていた。彼女は慌てて手を引っ込めていたが、それは触ってはならぬものに触ってしまったというよりは、触ってよいものに触ってしまったという、おかしな感覚を持ったからだった。不自然なほどに触り心地の良いものに触ってしまうと、人間はかえって驚いてしまうものだった。勿論、今まで触っていたものが常識的なものであればあるほど。さすがは手から落としたその球体を地面から拾い上げた。球体は、さすがが手を引っ込めたおかげでどしんと地面に落っこちていたが、どこかがへこんだり、傷ついていたりはしなかった。最初は勝手に宙に浮かんでいたそれは普通の重さを持つものになっていた。改めて、その手の間に玉を包むと、完璧ではないその丸は、ほのかに黄色い光を発して彼女の手を輝かせた。さすがはほかの人にもその丸を持ってほしいと思った。

 新たに現れた不思議な現象を、てつやとまちことしげおの三人は、一様に目を丸くして見ていた。しげおなどはもうこの世界は夢の中だと信じて疑わなくなった。しかし、さすがから手渡された球体を思わず受け取ると、その球体の安堵する心地に、なんともいえない快さに、これは決して夢ではないとあべこべな感想を抱かせた。さすがは彼から玉を返してもらい、今度はまちこにそれを預けた。まちこは緊張した面持ちでそれを受け取った。この不可思議な世界の中で、四人がしっかりした意識を持ちながら、共に出くわしたマジックに彼女は少しだけ背を正した。きちんとした姿勢でそれを受け取らねばならないと、変にフォーマルな気持ちになった。まちこは預けられた球体をなで回した。そしてさすがに返した。なるほど、確かにそれはなで心地がよく、布団に入れて抱き枕にしてもいいような丁度いい大きさだったが、これは自分のものにしてはいけないような気がして、彼女は満足いくほどその玉を触らなかった。次はてつやの番だった。てつやはそのふわりとした外形のただの玉をもらうと、まず固さを調べた。しっかりと固かったが、ほどよくへこんだ。そして重さは三キロもないほどで、爪先なんかに落とすとしっかりと痛そうだと思った。触りまくってみると、今度はすべての表面が同じような固さで、凹凸も決してランダムではなく規則的に付いていることに気がついた。玉をさすがに返した後で、彼は、脳裏に好きな子が思い浮かんだ。そして、告白しなければと急に思った。

 さすがは玉を大事に抱き締めた。そして、そっと地面に下ろした。玉は地面に紛れ、のっぺりとしたその表面の色合いが土や砂利石と同じものになり、いつのまにか、見えなくなって形を失った。四人はカメレオンのように地面に隠れていった球体を慌てて探したが、水平に透かして真横から見ても、その球体はどこかへと行ってしまった。

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