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四人の高校生の場合 彼此岸の旅1-3.螺旋樹と意志

 さすがは溜息をついた。さっきの玉の感触がまだ手に残っていて、否が応でももう一度それを触りたくなった。だが、それを地面に置いたのは彼女で、覆せないことをしたのは自分だった。彼女はそれがあった地面を手の平で撫でた。するとただ平らなはずの地面が、急に盛り上がり、めきめきと上方に伸びた。そして一対の大木になった。一対というのは、同時にそこが二箇所ぼこっと飛び出て、同じ太さのまま、それぞれ絡み合い急速に生長していったのだった。まるで螺旋のように木は生長し合い、それぞれの枝と葉を左右に伸ばして、やがて巨大化が止まった時、それは互いに見合う一対の樹となった。決して一体化はしていない、絡み合っていてもそれぞれの肌同士をぶつけ合ってはいない。まるで互いに主張し合うように、それぞれを睨みつけて見えた。が、同じ地面に立ち、同じような姿をして、同じ枝振りで。

 さすがはまるでリングの上で見合うボクシングの選手のようだと思った。逃げられない四角い空間で、繰り広げられる、ルールのある喧嘩を、この大木たちもやっているような。てつやはこの二本の樹を見上げて自分の家の畑の果樹たちを思い出した。一生懸命、枝を伸ばして、太陽に温もりを貰い、けなげに実を実らすオレンジの木々たち。彼らは適当な間隔を空けて栽培されているが、そうでなければ、場所の取り合い、奪い合いになるはずの。彼は自分の両親が育てている果樹たちをまるで人間のように思っていた。彼が育てた、まだ背の低かった稚児の果樹も見ている。それはもう実をつけていた。彼は両親に自分の育てたその樹から自分が初めて実をもぐように言われた。

 あっと彼は内心で叫んだ。あの丸。あの球は、まるで、その実が膨らんで、重く、固く、手触りのよいものになっていたような気がした。そうだ、あの実は地面に吸収されて、この木に、一対の大木に育ったのだった。

 大木は一見、その生長を止めたかのようだった。大人の五倍は背丈のある高さに伸び、そこで留まったからだ。しかし人間は植物の生長を存外に知らない。彼らは上に伸びるだけではないからだ。地面の下を、見誤っていた。そこで樹の根がいかに伸張し、彼らの足下まではびこり、そのさらに先に、ずっと遠くまで根が張り出していることを四人は気づかなかった。気づかなかったが、この樹を見上げて、どうしても四人は自分のそれぞれの思いをこの樹に託したくなった。まちこはこの樹の枝ぶりからどんな弓が作られるだろうと想像した。勿論、和弓は竹製だから真っ直ぐなしなる形状を有してなければならず、見るからに節くれ立った目の前の大木は不向きだということは判るが、それでもその想像をたくましくした。きっとまったくしならないものが出来上がるに違いない。そして扱う者を困惑させるだろう。どのようにして矢を飛ばしたらよいものかと。それでも矢をつがえて、飛ばしたくなるに違いない。しならなくても、絶対に飛ばせると考えてしまうに違いない。

 なぜだろう。まちこは想像が限りなく妄想に近く、思ってもみないことを思っていると考えた。どうしてだろう。目の前の樹を見ていると、どんどん、どんなことも可能ではないかと思ってくる。

 そのような気分は、しげおもずっと持っていた。片目の潰れた彼はそのもう片目で立体感のないこの大木を見上げていた。それは絵のようだった。一枚の絵。だがしかし、確かにその生長を見届けた。動き続けるいのちの絵。葉は咲き、風もないのに揺れている。わずかだが揺れて見える。そして高さこそもう止まってしまって違いはないものの、幹はかすかに膨らんでいるようだ。彼は、片目だからこそ、そう見えていたのかもしれない。両目であった頃よりもずっと見ることを意識するように、彼はなっていた。しげおはその樹に触りたくなった。そして、足を運び、その樹に触れた。

 樹は、喜ばしく葉を揺すった。そしていくつかのみずみずしい緑の手の平をその顔に落とした。しげおは急にボールを握りたくなった。さっきの非対称の球体ではない。野球の硬球を。ひたすら追った土の上の白球を。

 そしてその時のチームメイトに会いたくなった。怪我をして以来、彼はその時の仲間たちを遠ざけていた。無理もない、脳にまで障害が残り、クラスまで変えられてしまったのだから。しかし彼は、人懐っこさはなくしていなかった。新しい人間関係ができて、暮らしぶりも安定していった。だからもう元の仲間たちに会う必要はなかった。以前とは違う学校生活をできるようになったから。

 そして、白球をまた追う日々に戻ることはもうなくなったから。彼は新しい目標を、青春を謳歌できるものを見つけようとした。そして、新しい彼女もできた。それでも次に進むことのできない自分を感じていた。一生懸命漕いでも漕いでも、進めない自転車に乗っているように思った。彼は土台のない車に乗っているようにも感じた。タイヤは回るが、乗る場所がない。急に、彼の目の前に、一対の樹のこちら側に、もう一人の彼が佇んだ。彼は目を丸くした。もう一人の彼は、両目が開き、白球を握っていた。

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