四人の高校生の場合 異界1-3.土と草花
飛石さすがは人糞にまみれていた。というのも、彼女の腹の下痢が止まらず、止め処なく出される自分の糞に辺りがどんどん沈んでいったからだ。彼女は諦めていた。なぜなら尻からひり出されるほとんど水のような便は、やっとその腹の中から解放されて、喜びの中で出ているようなものだったのだから。彼女は止まることのない便意にむしろ快感を覚えていた。
それでも、いつか便意は止まる。彼女は見ている世界が違ったものに見えて、感動した。そこら中に散らされた彼女の下痢糞はほとんど透明だったから、それが辺りを覆ったにしてもまるで何も変えていない。しかし明らかに艶めいて、どれもが朝露に濡れたようになっていた。さすがはくりんと可愛く咲いている小さなリンドウの花に手を伸ばした。山の斜面でそれはゆるい風になびき、いじらしく今振りかけられた彼女の透明な人糞を首から飛ばした。そして、どんどん、どんどん前後にその首振りを大きくした。見るとどの花も、草も、そうして自分の頭を揺らした。山にある植物が皆、同じ方へ、一定のリズムで、まるでピアノの鍵盤を叩く感じで上下に頷き始めた。
さすがは植物たちの調子に合わせて自分も首を振った。このリズムには覚えがある。よく聞くポップスの、明るい色調の音楽だ。何も考える必要のない、ただただ楽しい、約束された未来とそれに突き進む仲間たちを褒め、元気付け勇気付ける、言ってみれば王道な、アイドルの曲。彼女ははっとした。それはよく聴く歌だったが、あの両脚の怪我をしてからは、聴く機会がめっきり減った。彼女は歌い出した。正確に歌詞を追って、何かを振り切るように、またあの未来を望むべく。
すると、草花たちの振る頭がぴたっと止まった。そしてゴゴゴと地面が唸ると、さっきの草花が、そこから顔を出した。つまり、草花たちの生えた地面から、生えていたものと同じものが、土の中からどんどん、どんどん現れた。芽から生長せず、すでに花開いたものたちが、その茎と共に、柔らかい土を、押しのけて。そして地面そのものがめくれ上がった。今まで生えていたものは土の中に沈み、新しく生えてきたものがその上に乗った。そしてまた、新しいものが土を割って、さっき生えてきたばかりのものをその下に押しのけた。圧倒的な速さの滅びと、生誕の繰り返しが、そこに起きた。
彼女は歌うのをやめなかった。やめられなかった。土は繰り返しかき混ぜられ、その色はすっかり地面の下に沈んでいたもの、黒っぽく湿った色になった。さすがはその歌を終わりまで歌い切ってもまだ続けねばならなかった。自らを耕し続ける土と誕生し続ける草花が、その何かを喜ぶ踊りをやめなかったから。しかしさすがはだんだんと疲れてきてぐったりし始めた。ふいに彼女は歌うのをやめた。そしてボクシングのリングでするように、一人でスパーリングを開始した。彼女は何も考えていなかった。考えることをやめていた。自分の汗でそんなものは飛ばしたかった。巻き上がる黒土。はや土壌は自ら唸り、彼女の歌で乗せられるのではなく、己で自分をかき回している。いいや、そのスパーリングの繰り出す拳に合わせて、激しく前後するステップに合わせて、今度は土が彼女を乗せた。草花は次々に土から飛び上がり、嬉しそうに、パンチと同じタイミングで体をくの字に折り曲げた。
共演はしばらく続いた。彼女は汗だくになった。はあはあと息をつき、ひざに手を当てた。ゆるやかな疲労が体を包み、健康的な湯気が全身から立ち昇った。すると地面からも、同じように白い湯気が立ち昇った。地面も運動して汗をかくことがあるの?と、さすがは久し振りにものを考えた。
だがここからだ、と彼女は思った。自分の問題は、対戦相手が、衝撃的な反則を犯してきたから、いまだその動揺が続いていることなのだ。今、自分はリングにいるかもしれない、とさすがは思った。そのつもりで一人でシャドーボクシングをしていた。でも、本当の相手がそこにいたら。彼女は目を瞑った。そして、架空の相手に拳と拳を合わせた。さすがは目を開けた。そこにはおぼろげながら鏡に映った自分が見えた。ああ、と彼女は感じた。自分はあの相手に、なぜあんな反則をしたのか聞いていない。その原因を、自分から何も尋ねていない。
尋ねられるだろうか?と彼女は考えた。尋ねても、あの子は、きちんと理由を説明してくれるだろうか。そうだ、あの子は同じ学校の同級生だった。訊く機会はいっぱいある。そう思うと、地面の上に現れた、混ぜっ返された土から出てきた草花が砕けた。そして、土も砕けた。山の斜面は丸ごと滅び、彼女の目の前は空っぽの宇宙になった。ここに何か入れられる。そう彼女は思った。何かを植えよう。
彼女は強い意志が芽生えるのを自分に感じた。そして、どこかに目を覚ました。そのどこかは現実ではなかったが、逆巻く溶岩を吸い込むように、逆になった火山が火を戻していた。




