命の危機がある者たち 彼此岸の旅2-3.産木と根
とものりととくやは一緒になって彼らの樹を見上げていたが、急にとくやが何かを叫び出した。それは言葉になってない大声だったが、「いい加減にしろ」「もうたくさんだ」といったニュアンスを含む声だった。
ひとしきり叫んで、とくやは自分の足元を見つめた。彼は一度この空間から出て、現実に戻り、また夢を見てこの場所に帰ってきたのだが、彼は同じような夢を経て戻ってきた。人間の、いざこざや不満の現場を見てきて、そのあとで健全なスポーツに打ち込む人々、何かを一生懸命に続けている人々の間を縫い、そして自らが神にでもなったような、人から遠ざかる存在になっていく夢だ。彼は葉を生らしまた新たに葉と、花とを咲かせつつある大樹を見上げ、このままでいいのか、自分や周りの世界はこのままでいいのかという強烈な感情に胸を突かれた。それでさっきの大声を上げたのだが、声は「このままでよくない」という気持ちを乗せず、ただ何かの否定、訳の分からないものの否定を表した。
とくやはそして足元を見つめた。樹の根の張る、土の中で見えない地中を、彼は覗き込むようにした。すると、新たな根が、まるで屋久杉のようなこぶ立った根が、土の中からぼこっと飛び出し、彼の足元を囲むように出張った。同じように、とものりの足元にもそれが起こった。二人はまた見つめ合った。とものりは確実な現実をそこに感じていた。これは夢ではない、決してと。とものりは優しく飛び出したこぶ根に触ってみた。するとそこから別の芽が出て、柔らかい茎と葉の小さな産木が立った。産木はそれ以上大きくはならなかったが、大きくなろうとする衝動を彼は感じた。
とくやもまた自分を取り囲んだ根から産木が生えてくるのを見た。彼は、その一本一本、丁度六つ揃ったものを見て、自分たちのようだなと思った。つまり、シェアハウスをしていた、自分も含めた六人の男女に。そして、彼はそのうちの一本を手折った。彼の仲間は、一人が死んだからだ。すると彼が手ずから折った苗木は、彼の手を離れて、地面へと消えた。跡形もなく、折り取った分は消えてしまったが、残った茎の部分はまた新しい葉を付けた。彼は、とものりが感じたのと同じくどの茎ももっと高く巨大になりたがっている気がした。
同様のことは、周囲でも起きていた。それぞれが生んだ一対の大樹は、その根を各人の足元の周りに飛び出させ、それぞれの思い人を象る柔らかい茎をその根に伸ばした。そしてその茎が自ら上に伸びようとしているのを感じ取らせた。
突然号泣する声が周りで起き始めた。むせび泣く声が方々でした。彼らは根から生え出した新しい木を、胸の痛む思いで見つめていた。それはまさしく伸びようとする木、そしてその成長を阻害されていた木でもあったからだ。彼らは各人、各々の夢を通り過ぎて、ここに来ていたが、それらの夢は皆恐ろしく現実を踏襲していた。いいや、夢とはそういうものだろう。それは決して現実離れしたものを見せるのではなく、あくまで現実に遭ったものを、形を変えて、まるで連想形式のように、そこに見せるのだ。
しかし、それは二十年後の未来だった。あくまでそれは、今起きていることではなかった。




