命の危機がある者たち 彼此岸の旅2-1.芽
そこにはたくさんの人間がいた。大勢が降りかかる火の粉を浴びながら、大穴から炎を吸い込む逆さ火山を見ていた。ようこ、ともこ、とくや、そしてとものりはその最前列にいた。
皆、息を呑み異常な地下世界の光景を見ている。老若男女問わず、普段着のまま、そこにつどった彼らは不思議な丸を貰っていた。それは、てつややまちこらが触ったことのある、手ごろな大きさの玉だった。両手に抱えて、無意識に、それを体の正面に持っている。
彼らは一様にその玉に愛着を感じていた。撫で回し、よくつかみ、吸い付くような肌触りに手放すことができなかった。しかし彼らは、それを無意識で行っていたために、そこに丸があるのかどうかも分からなかった。まるで夢幻の中を漂うようにして、逆さ火山の圧倒的な姿に息を呑んでいたために、手元にあるものをひたすら触る自分の手と、その目と、頭が分離していたのである。
ようこ、ともこ、とくや、とものりも同様だった。彼らも一様に手元の、胸元の玉を愛でていた。視線は火のほとばしりだった。それで元の世界に帰っていった者がいた。ともこ、とくやの二人だ。二人はいい大人だったが、それぞれに生活があった。ひょっとしたら緑色の光に導かれて冒険しただけで、この世界に来るには十分過ぎる経験をしたのかもしれない。彼らは現実ほど不思議なものはないと知っているからだ。
大勢が、そこにつどっていたが、次第に数は減っていった。残されたのはほとんどが子供たちだった。子供たちは皆がしっかりと地面に踏んばり、この不思議な光景を、呑み込まれるのではなく呑み込むようにして眺めていた。そのうち一人が、玉を落とした。それは無意識にだった。玉は、大きな音を反響させて地面の上を跳ねた。そして跳ねたかと思うと、次に土に付く瞬間、ふっと見えなくなった。それを見て思わずまた誰かが玉を落とした。するとそこに、芽が出た。玉は、跳ねるとその瞬間に消え去り、落ちた所から緑色のみずみずしい植物の芽が飛び出たのである。
面白いと思った他の子供たちが次々と手に持った玉を落とし始めた。そこには全然形の違う芽がぴょっこりひょっこりと現れた。ようこととものりも足元に持っていた自分の玉を落とした。すると、とものりの場合は、鋭い葉が特徴の白い芽が出て、ようこの場合はピンク色の可愛らしい丸葉の芽が出た。がやがやと子供たちが互いにしゃべり出した。これはどういうことなんだろう?おもしろい!でもここはどこ?など、決して怖さを抱いていない、興味津々の感想がその口から漏れてきた。
すると、その芽出した稚児の木に、急に現れた誰かが玉をかざした。それを持っているのはさっき次々に消えたはずの大人たちだった。ここに戻ってきたのだ。勿論、再びそれぞれの夢空間を越えてきて。彼らは現実ほど不思議なものはないと知っていたが、その不思議の現実にちょっと参ってしまったから、この世界に流れてきたというのに、また現実に戻り、何も解決していなかった現実に、再び不思議の扉を開けさせてしまった。
ようこの前に、ともこが現れ、とものりの前に、とくやが立った。ともこととくやはだらんと前に垂らした両腕の先に玉を抱え、それぞれの下にあるようこととものりが咲かせたいじらしい芽を、その玉と交互に見比べていた。




