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代役を立てよう

私は近頃の悩みは、あの無銭吸血野郎のことだ。


「………」


鏡を見る。自分の首筋に二つの噛み跡と青紫の痣。が、二か所。

くそやろう、遠慮なく噛むから跡が残りまくっている…。

普段は首元が出る服も着ないし見えて困るとは思ってない、が、痛いから普通に嫌だ。

痛くなければ、痛くなければまだ許せ……ない、嫌だ。賃金も発生しないのに血を奪われるのは癪だ。

あの吸血鬼にそれを言っても、


『美形に噛みつかれるだけで充分メリットあるだろ』


なんて頭のおかしいことを言う。ねえよ。もはや顔の造形なんて見慣れて何とも思わない。

溜息を落としてシャツを着る。

どうにかあの吸血鬼に血をくれてやりたくない。痛い思いしたくない。

ありとあらゆる弱点を並べても無駄だった。嘘までつかれて酷い目にあった。

何か、何か策をねらないと…。




****




「理智、なんか最近疲れてるね?」

「ええ…」


昼休みに同僚の伊沙子に声をかけられた。


「ちょっと、なんというか、巨大な蚊がずっと夜現れてストレスでさ…」

「えー最近暑くなったからかな?そんなでかいの?」

「それはもう…なんか、すごいでかいんだ…180くらいあんのかな…」

「あはは、でか!」


本当のことしか言ってないけど冗談と受け止めてくれたらしい。ありがとう。


「吸血鬼が二日にいっぺんぐらい私の血を求めてきて困ってるの♡」


なんていったら、いい年していかれた妄想をしている女になってしまう…。

欲求不満から見えないものが見えちゃう系と認知されたら嫌すぎる。

相談するところもないんだよなあと遠い目をしていたところに、ふとある人が見えた。

全体的に黒い服を好み、ネイルも黒。背中まで伸びたサラサラの黒髪をなびかせて歩く女の人。肌は少し病的なぐらい白い。


「おー今日も全身黒だねえ、きっちゃん。似合うからいいんだけど」


私の視線に気づいたのか、伊沙子が彼女について感想を述べる。


「きっちゃんか……」


きっちゃんも同期で、たまにしか話さないけどいい子だ。

ただ雰囲気が独特で、良くも悪くも目立っている。

しかし、あの見た目…ひょっとして、オカルト好きだったりしないかな…。


「ちょっときっちゃんと話してくるから先に食べてて」

「え?うん、いってら」


不思議そうに見送ってくれる伊沙子に手を振って、きっちゃんの後を追った。





****




「わ、珍し。久しぶり理智ちゃん」

「久しぶりーごめんね急に」


目的の人物を捕まえると、きっちゃんは快く対応してくれた。

見た目に反してのんびりしているというか、穏やかな子だ。


「あのー…ね、突然変な話でごめんなんだけど…きっちゃんてオカルト好き?」

「ん?好きだけど…どうしたの?」

「吸血鬼とか、詳しかったりする…?」

「そんなに詳しくはないけど好きだよ―。映画とかいろいろ見ちゃうね」


吸血鬼の話をすると心なしか目が輝いた。興味はあるらしい。


「歴史とかはわかんないけど、キャラクターとしてすごい好きでさあ。かっこいいよねえ。憧れてスクランパー開けたぐらい」

「スクランパー?」


聞き馴染まない単語に首をかしげると、これこれ!とにっこり笑って口元を見せてくれる。

きっちゃんの口元には、牙が生えていた。


「え!」


思わず身構える。私のトラウマ、見たくないもの。諸悪の根源。

驚く私にけらけらと笑って、ピアスだよーと唇をめくって見せてくれた。

なんでそんなものを、そしてそんなとこに。痛そうすぎる…。


「き、きっちゃん痛みに強いなあ…私耐えられないなあ…」

「慣れだよねえ。私元々痛みに強いけどさ」

「………」


吸血鬼に憧れてる…痛みに強い…え、これは適役なのでは?

きっちゃんであれば、痛みに耐えられて吸血鬼ウェルカムで結果オーライ。

あの吸血鬼も快く血をくれる可愛いこのがいいだろう…!


「きっちゃん!」

「ん?」

「きっちゃんは、献血とか平気なほう…?」

「…ほんとにどしたの理智ちゃん?」


頭がいかれてると思われてもしょうがない。ここは相談しよう。

友達が一人減るかもしれないが心に決めて、きっちゃんを会社帰りうちに呼ぶことにした。





「吸血鬼に血を吸われて困ってる…?」


私の部屋に来たきっちゃんがリアルタイムで困っていた。ごめん。


「そう、ごめん頭おかしいと思うかもしれないけどこれ見てほしい…」


私は襟元を広げて吸血の痕を見せる。

きっちゃんは驚いて目をまん丸くしてから、まじまじと痕を見た。


「これ、本物…?え、すごい、吸血痕かっこいい…!」

「そう、かあ?私は忌々しいけど…そう、これが証拠で、普通に痛いのこれ…」


目をキラキラと輝かせて傷跡を見るものだから、きっちゃんも大概いかれてるなと思いながら話を進める。


「で、ですね。きっちゃんさえよければ、吸血鬼に吸血されたりしないかなって…」

「いいの?!」


きっちゃんは身を乗り出して嬉しそうに言う。

ここまで積極的だとむしろ引く。私が引いている。こわい。


「もちろん、ていうか助かる…でもきっちゃんにも無理してほしくないから、ちょっと今日お試しで泊まっていって見てほしいんだけど」

「ぜひ!すごい、本物に会えるなんて…ありがとう理智ちゃん」

「いやあ、全然…」


手を握って感謝された。こわい。

良かったな吸血鬼。お前みたいなDV野郎を好きな子もいるみたいよ。

急なお泊りにも対応してくれるきっちゃんに感謝しつつ、ご飯やお風呂を済ませて吸血鬼を待つことにした。





場面が雑に飛ぶなあ(私事)

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