第99話 それでも灯る火
灯が一つ消えた夜のあとも、
空は変わらなかった。
星は同じ位置にあり、
黒い太陽は朝に薄く浮かぶ。
丘の観測所も、
いつものように動いている。
ただ、
望遠鏡の向きが少し増えただけだった。
遠枝の灯を、
数えるためだ。
セリーヌは記録紙を広げる。
小さな点が並んでいる。
遠い枝の文明。
灯り。
昨夜消えた点の横には、
小さな黒い印が付けられている。
だが、
その周りにはまだ光がある。
いくつも。
丘の草に腰を下ろし、
カイルは空を見ていた。
消えた場所はもう分からない。
夜は深い。
星が多い。
その奥で、
いくつもの小さな灯りが揺れている。
遠枝の灯。
遠い文明の夜。
風が吹く。
草が波のように揺れる。
幹振動が、
足元からゆっくり伝わる。
どくん。
どくん。
低く、
長い鼓動。
セリーヌが言う。
「まだ多い」
遠枝の灯。
消えたのは一つだけだ。
世界樹は広い。
あまりにも広い。
そのどこかで、
いくつもの枝が夜を迎えている。
丘の向こうで、
子供たちの声が聞こえる。
村の子供たちだ。
夜になると、
丘まで来て空を見る。
遠枝の灯を、
星だと思っている。
「見えた!」
誰かが叫ぶ。
指を空に向ける。
小さな光が、
確かに揺れている。
カイルはそれを見る。
遠い。
手も届かない。
声も届かない。
だが、
確かにそこにある。
火がある。
誰かが守っている火。
世界は広い。
枝は無数にある。
その中には、
消える灯もある。
だが、
残る灯もある。
セリーヌが紙に印を付ける。
新しい光。
昨夜は見えなかった点。
遠枝の灯は、
減るだけではない。
増えることもある。
カイルは空を見続ける。
星の奥に、
小さな火が揺れている。
幹振動が落ちる。
どくん。
どくん。
世界樹は伸びる。
枝は増える。
灯が消える夜もある。
それでも。
火はまだ灯っている。
遠い夜のどこかで。
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