第100話 枝の時代
季節が一つ過ぎていた。
合流から、半年。
空はもう、
誰にとっても珍しいものではない。
朝になれば、
黒い太陽が薄く浮かぶ。
昼には消え、
夜には星が深く広がる。
人々はそれを、
ただの空として見上げるようになった。
市場は開く。
船は港を出る。
森は広がる。
新しい丘陵には、
もう道ができている。
世界は変わった。
だが、
生活は続いている。
丘の観測所では、
今も星図が更新されていた。
紙の地図はもう何枚にもなっている。
枝図。
遠枝の灯。
影になった枝。
層の線。
それらが重なり、
一つの大きな図になりつつある。
セリーヌが言う。
「世界樹時代」
誰かがそう呼び始めた。
世界が枝であると分かった時代。
遠い枝を観測する時代。
空の奥に、
知らない夜があると知った時代。
カイルは丘の下で土を踏む。
畑は変わらない。
芽は伸び、
作物は実る。
ただ、
少しだけ違う。
成長が早い。
土が深い。
そして、
夜になると遠枝の灯が見える。
それだけだ。
丘の上では、
子供たちが空を見ている。
「また増えた」
小さな声。
遠枝の灯が一つ、
また見つかったのだ。
新しい点。
知らない文明の夜。
カイルは空を見る。
星が多い。
灯も多い。
影になった枝もある。
それでも、
光は残っている。
幹振動が、
土の奥から伝わる。
どくん。
どくん。
低く、
長い鼓動。
世界はまだ伸びている。
誰も止めていない。
誰も導いていない。
ただ、
そうなっている。
カイルは畑を歩く。
畝の間をゆっくり進む。
芽に触れる。
葉は柔らかい。
温かい。
遠い枝でも、
同じ夜があるのだろうか。
同じように、
誰かが空を見ているのだろうか。
カイルは考えない。
ただ土を踏む。
芽は伸びる。
森は広がる。
遠枝の灯は揺れる。
世界は枝だった。
そして今、
枝の時代が始まっていた。
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