第101話 鼓動のずれ
最初に気づいたのは、
誰でもない。
ただ、
畑の土だった。
朝の空はいつも通りだった。
黒い太陽は薄く、
遠枝の灯はもう見えない。
風も穏やかだ。
村では市場の準備が始まっている。
だが、
畑の土は少し違っていた。
カイルは畝の間を歩く。
足の裏に、
いつもの鼓動がある。
幹振動。
世界樹の鼓動。
どくん。
どくん。
低く、
長い。
だが。
少しだけ、
遅い。
カイルは足を止める。
耳を澄ます。
音ではない。
土の奥の感覚。
どくん。
……。
どくん。
間が長い。
ほんの少しだ。
だが、
確かに違う。
丘の上から、
足音が降りてくる。
セリーヌだった。
息を切らしている。
「感じた?」
カイルはうなずく。
セリーヌは観測器を地面に置く。
針が揺れる。
ゆっくり。
以前より、
周期が長い。
「記録でも出てる」
エリオットも丘から降りてきた。
紙の束を持っている。
「昨日から」
昨日。
わずかに。
そして今日。
さらにわずかに。
鼓動が遅くなっている。
だが、
止まってはいない。
セリーヌが空を見る。
星はない。
昼の空だ。
だが、
遠い枝の灯がある場所を
無意識に見ている。
「枝の増えすぎ」
誰も否定しない。
枝は増えた。
合流。
新枝。
遠枝。
世界樹は太くなった。
それでも、
幹は一つだ。
カイルは土を踏む。
どくん。
……。
どくん。
遅い。
だが、
確かに続いている。
畑の芽は伸びている。
森も広がっている。
遠枝の灯も消えていない。
世界は変わらない。
だが。
ほんのわずかに。
鼓動がずれている。
それだけだった。
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