第97話 未成熟枝の声
それは音ではなかった。
最初に気づいたのは、
観測装置の針だった。
丘の観測所で、
小さな振れが続いている。
幹振動とは違う。
周期が合わない。
振幅も弱い。
だが、
確かに続いている。
セリーヌは装置の記録を見つめる。
線が細かく震えている。
不規則だ。
幹振動のような整った鼓動ではない。
むしろ、
揺らぎに近い。
「どこからだ」
エリオットが聞く。
セリーヌは星図を開く。
枝図の上に、
新しい点を置く。
遠い枝。
層の少し下。
遠枝の灯のさらに奥。
そこから来ている。
丘の上に風が吹く。
草が揺れる。
だが装置の針は、
風とは違う動きを続ける。
カイルは黙って土を踏む。
足元から伝わる鼓動。
幹振動。
低く、
ゆっくり。
それとは別に、
かすかな揺れがある。
遠い。
とても遠い。
それでも、
感じる。
セリーヌが言う。
「未成熟枝」
枝は成長する。
だが、
すべてが太くなるわけではない。
接触できない枝もある。
合流できない枝もある。
そういう枝は、
やがて落ちる。
剪定。
だが、
落ちる前には兆候がある。
振動が乱れる。
枝全体が揺れる。
それが今、
観測されている。
丘の空は静かだ。
遠枝の灯は、
今夜も揺れている。
だが、
そのさらに奥。
小さな歪みがある。
星の並びが、
ほんの少し崩れている。
そこにある枝。
まだ光は消えていない。
だが、
揺れている。
カイルは空を見る。
遠すぎる。
声も届かない。
手も届かない。
それでも、
何かが伝わってくる。
土の奥から。
世界樹の鼓動の間に、
かすかな震えが混じる。
どくん。
……かすかな揺れ。
どくん。
また揺れる。
セリーヌが静かに言う。
「声みたい」
誰の声かは分からない。
言葉ではない。
ただの振動。
それでも、
何かを伝えようとしているように感じる。
カイルはしばらく空を見ていた。
遠枝の灯。
遠枝の影。
そして、
揺れる枝。
世界樹は大きい。
あまりにも大きい。
すべての枝を救うことはできない。
それでも、
その揺れは確かに届いていた。
土の奥で。
鼓動の間で。
かすかに。
未成熟枝の声のように。
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