第96話 枝の層
幹の影を見た夜から、数日が過ぎた。
空は元の静けさに戻っている。
遠枝の灯も変わらない。
黒い太陽も、
いつものように朝の空に浮かぶ。
だが、
観測所の空気は少し違っていた。
丘の上に並ぶ望遠鏡は、
これまでとは違う方向を向いている。
遠くではない。
高さだ。
セリーヌは星図を机に広げる。
その上に、
新しい線を引いていた。
枝の線。
だが、
今回は横ではない。
縦の線が描かれている。
カイルはその紙を覗く。
「空の地図か」
セリーヌは首を振る。
「層の地図」
これまでの観測では、
枝は広がるものだと考えられていた。
横へ伸びる世界。
だが、
幹の影を見た夜から、
一つの疑問が生まれた。
星の歪みの方向が、
合わない。
遠枝の灯も、
同じ平面にあるわけではない。
いくつかは、
わずかに“上”にある。
セリーヌが紙の中央を指す。
円が描かれている。
今いる世界。
合流した枝。
その上下に、
細い線が伸びている。
「枝には高さがある」
エリオットが言う。
世界樹は平面ではない。
立体だ。
幹から、
無数の枝が出ている。
それぞれが違う高さへ伸びる。
だから、
すべての枝が出会うわけではない。
遠くても近い枝がある。
近くても届かない枝がある。
それが層だった。
カイルは空を見る。
星はいつもと同じだ。
だが、
奥行きが違う。
遠枝の灯が一つ揺れる。
その隣に、
さらに小さな光がある。
前は見えなかった灯。
高さが違う枝。
セリーヌが言う。
「新枝は低くない」
合流した世界は、
未成熟枝ではない。
むしろ、
幹に近い層にある可能性がある。
それが意味することは、
まだ誰も言葉にしない。
丘に風が吹く。
紙の端が揺れる。
枝図の縦線が、
わずかに波打つ。
世界は横に広がるだけではない。
上にも下にも、
枝がある。
カイルは土を踏む。
幹振動が伝わる。
どくん。
どくん。
低く、
長い鼓動。
その鼓動は、
どこから来ているのか。
遠くの枝か。
上の枝か。
それとも、
さらに下の枝か。
空は静かだった。
だが、
世界は立体だった。
枝はまだ、
無数にある。
見えているのは、
ほんの一部に過ぎなかった。
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