第94話 星の地図
丘の観測所には、
大きな紙が広げられていた。
まだ完成していない地図だ。
星図ではない。
枝図。
例外調査局が、
合流のあと初めて作り始めたものだった。
望遠鏡で見える星の歪み。
遠枝の灯。
影になった枝。
それらをすべて重ねていく。
すると、
一つの形が浮かび上がる。
セリーヌは静かに紙を押さえている。
風が強い夜だった。
地図の端がめくれそうになる。
重石として置かれているのは、
小さな石と測量器。
カイルはそれを少し離れて見ていた。
線がある。
円ではない。
星座の形でもない。
広がる枝のような線。
いくつもの点がある。
光の点。
遠枝の灯。
そして、
黒い点。
光を失った枝。
セリーヌが言う。
「これが今見える範囲」
紙の中央に、
一つの印がある。
小さな円。
今いる世界。
合流した枝。
その周りに、
いくつもの枝が広がっている。
だが、
すべて同じ距離ではない。
近い枝。
遠い枝。
そして、
さらに奥。
線が途切れている場所がある。
観測できない領域。
カイルは空を見上げる。
星は多い。
だが、
すべてが見えているわけではない。
深い闇がある。
その奥にも、
枝があるのかもしれない。
エリオットが紙の端を押さえる。
「まだ足りない」
地図は小さい。
世界樹は大きい。
今見えている枝は、
ほんの一部だ。
遠枝の灯が揺れる。
地図の上の小さな点と同じ光。
知らない文明。
知らない夜。
そして、
影になった枝。
その点は黒く塗られている。
カイルはその黒い点を見る。
救えない距離。
灯りを失った場所。
それでも、
地図には残されている。
消さない。
そこにあった証だから。
セリーヌは紙の中央を指す。
「ここは新枝」
合流した枝。
太くなった世界。
そこから、
さらに枝が伸びていく。
未来の枝。
まだ見えない枝。
風が紙を揺らす。
地図が少しめくれる。
その奥の余白が見える。
まだ何も描かれていない場所。
世界樹の余白。
カイルは空を見上げる。
遠枝の灯が揺れる。
その奥にも、
まだ見えない光があるのかもしれない。
足元の土が、
ゆっくりと震える。
幹振動。
どくん。
どくん。
世界はまだ伸びる。
その先に何があるかは、
まだ誰も知らない。
星の地図は、
少しずつ広がっていった。
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