第91話 深い鼓動
夜が静かになる時間がある。
風が止まり、
虫の声も遠くなる。
空の星が、
少しだけ強く見える時間。
その頃になると、
土の奥の音がよく聞こえる。
幹振動。
例外調査局の言葉ではそう呼ばれている。
だが、
カイルにとってはただの鼓動だ。
低く、
ゆっくり。
昔より深い。
畑の端に座る。
昼間の熱がまだ土に残っている。
だが、
その奥にもう一つの温かさがある。
世界の奥の温度。
足を土に押し込む。
鼓動が伝わる。
どくん。
長い間。
そしてまた、
どくん。
以前より、
間が長い。
だが、
重い。
世界が呼吸しているようだ。
丘の上から、
足音が降りてくる。
セリーヌだった。
手に小さな測定器を持っている。
「やっぱりここが一番強い」
装置を地面に置く。
針がゆっくり揺れる。
振幅は小さい。
だが、
周期が長い。
「変わったのか」
カイルが聞く。
セリーヌは頷く。
「枝が増えたから」
合流で、
世界は太くなった。
枝が一本増えた。
それだけではない。
遠枝も、
少しずつ伸びている。
世界樹は止まらない。
だが、
枝が増えれば増えるほど、
幹は重くなる。
鼓動が遅くなる。
それでも、
止まらない。
「疲れるのか」
カイルが言う。
セリーヌは少し考える。
「疲れる、とは違う」
空を見る。
星が深い。
遠枝の灯が、
今夜も揺れている。
「重くなるだけ」
世界は伸びる。
枝は増える。
そのたびに、
幹の鼓動は深くなる。
低く、
長く。
セリーヌは装置を拾う。
「でも止まっていない」
それが大事だった。
カイルは土を踏む。
鼓動が伝わる。
どくん。
どくん。
遅い。
だが、
確かだ。
芽は伸びている。
森は広がる。
遠い枝の灯も消えない。
世界はまだ伸びる。
その重みを抱えながら。
カイルは空を見る。
星の奥に、
さらに深い闇がある。
そこにも、
まだ枝があるのかもしれない。
鼓動がまた一つ落ちる。
どくん。
世界は、
静かに生きている。
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