第90話 遠枝の灯
秋に近い夜だった。
風は冷たく、
空はよく澄んでいる。
星が多い。
合流のあと、
夜空は以前より深くなった。
星の数が増えたわけではない。
奥行きが増えた。
遠い星が見えるようになった。
畑の仕事を終え、
カイルは小屋の外に出る。
灯りは消してある。
夜の光だけで十分だった。
太陽は沈み、
黒い太陽も薄く消えかけている。
夜は静かだ。
だが、
完全な闇ではない。
星が多すぎる。
カイルは空を見上げる。
慣れた星座がある。
その奥に、
知らない星の並びがある。
そして、
さらに奥。
小さな光が揺れる。
星ではない。
瞬き方が違う。
少し遅れて、
少し不規則に明るさが変わる。
カイルはしばらく見ている。
風が畑を渡る。
芽の葉が揺れる。
幹振動が、
遠くで低く響く。
夜の鼓動。
空の光が、
また一つ揺れる。
星ではない。
火のような、
灯りのような光。
丘の向こうから、
足音がする。
エリオットだった。
「見ているか」
カイルは頷く。
「あれか」
エリオットも空を見る。
光は消えない。
ゆっくり揺れている。
「観測隊も確認した」
「星じゃないのか」
「違う」
エリオットは静かに言う。
「あれは地上の光だ」
遠い枝。
まだ接触していない世界。
そこに、
誰かがいる。
灯りを灯している。
合流した枝だけではない。
世界樹には、
まだ無数の枝がある。
そのどこかで、
同じように夜を迎えている場所がある。
空の奥の灯りが、
また揺れる。
消えない。
誰かが火を守っているように。
カイルは黙って見ている。
遠い。
手は届かない。
声も届かない。
だが、
確かにある。
世界は広い。
広がり続けている。
エリオットが言う。
「枝はまだ伸びる」
カイルは答えない。
ただ、
空を見る。
遠い灯り。
知らない誰かの夜。
畑の土を踏む。
芽は伸びている。
世界もまた、
静かに伸びている。
遠枝の灯は、
その証のように、
夜空の奥で揺れていた。
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