第87話 再芽の森
荒野だった場所に、
森が生まれていた。
まだ誰も正式な名前をつけていない。
地図には、
ただ「新森」とだけ記されている。
合流から一月。
本来なら、
まだ草が生え始める頃のはずだった。
だが、
そこにはすでに木が立っている。
若木ではない。
細いが、
しっかりと幹を持った木だ。
葉は柔らかい緑。
枝はまだ高くない。
それでも、
森と呼ぶには十分だった。
例外調査局の観測隊が、
その縁に立つ。
セリーヌが木の幹に触れる。
温かい。
普通の木より、
わずかに体温に近い。
「切ります」
許可が出る。
小さな鋸が幹に入る。
切り口は滑らかだった。
木の香りが広がる。
そして、
年輪が見える。
リナが息を呑む。
「……多すぎる」
直径はまだ腕ほどしかない。
だが、
年輪は数十本ある。
本来なら、
何十年もかかる数だ。
「時間ではない」
セリーヌが言う。
「成長段階です」
世界が伸びた。
その影響で、
生命の周期も変わっている。
幹振動が、
土を通して伝わる。
木々はそれに合わせて、
成長を刻む。
だから年輪は、
年の数ではない。
鼓動の数だ。
風が森を抜ける。
葉が一斉に揺れる。
まだ若い森の音。
だが、
どこか深い。
遠くで、
黒い太陽が雲の縁に浮かぶ。
森の影が二重になる。
その中を、
一人の男が歩く。
カイルだった。
畑から少し離れた場所。
ここは、
かつて何もなかった。
ただの荒野。
侵入不可の外側。
今は森だ。
カイルは木の幹に触れる。
樹皮は柔らかい。
だが、
芯は強い。
足元の土を踏む。
深い。
以前より、
少しだけ重い。
幹振動が、
ここでも響く。
低く、
長い鼓動。
森がそれに合わせて、
わずかに揺れる。
カイルは空を見る。
黒い太陽。
そして、
こちらの太陽。
二つの光が森を照らす。
芽は伸びる。
木も伸びる。
世界も伸びる。
それだけだ。
カイルは森の奥を見渡す。
まだ小さい。
だが、
確かに広がっている。
誰も植えていない森。
世界が伸びた場所に、
自然に生まれた森。
カイルは静かに言う。
「……早いな」
風が葉を揺らす。
森は答えない。
ただ、
静かに成長していた。
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