第85話 黒い朝
合流から三十一日目の朝。
空は静かだった。
東の地平から太陽が昇る。
その少し上に、
もう一つの光がある。
黒い太陽。
完全な闇ではない。
薄い金の縁を持つ、
影のような光。
朝になると、
それは必ず太陽の少し後ろに浮かぶ。
人々はもう驚かない。
市場は開き、
船は港を出て、
鐘はいつもの時間に鳴る。
ただ、
影だけが少し長い。
建物の影が二本になる時間がある。
子供たちはそれを面白がる。
大人たちは、
なるべく見ないようにする。
畑で、
カイルは土を踏む。
夜露が残っている。
だが、
以前より温かい。
黒い太陽がある朝は、
土が冷えない。
鍬を入れる。
刃が深く入る。
柔らかい。
だが、
軽くはない。
重い。
土の奥が、
静かに呼吸している。
幹振動。
以前より弱い。
だが、
深い。
低く、
長い鼓動。
カイルは畝を見渡す。
芽が出ている。
昨日までなかった芽。
しかも、
少し大きい。
「……早いな」
つぶやく。
隣の畝でも、
同じ芽が出ている。
種を撒いたのは三日前だ。
本来なら、
まだ土の下のはずだった。
しゃがみ込む。
指で土を払う。
根がもう伸びている。
白い。
太い。
普通の芽ではない。
だが、
異常でもない。
育とうとしているだけだ。
遠くで鐘が鳴る。
朝の仕事が始まる合図。
空を見上げる。
太陽。
そして、
黒い太陽。
二つの光。
だが、
まぶしくない。
ただ、
少し影が増える。
畑の端で、
風が動く。
新しい丘陵が見える。
合流の時に現れた地形だ。
まだ名前がない。
地図にも載っていない。
だが、
そこにある。
カイルは鍬を持ち上げる。
仕事を続ける。
世界は伸びた。
空は深くなった。
星は増えた。
だが、
作物は芽を出す。
土は耕せる。
それで十分だった。
鍬が土に入る。
柔らかい。
だが、
底が遠い。
カイルは少しだけ笑う。
「伸びたな」
世界のことか。
畑のことか。
自分でも分からない。
ただ、
芽は伸びる。
空の下で。
二つの光の下で。
静かに。
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