第84話 新枝
合流から、三十日。
世界は落ち着いていた。
黒い太陽は、
朝焼けの縁に淡く浮かぶ。
夜には、
増えた星座がゆっくり巡る。
地図は書き換えられ、
海図は修正され、
測量値は新基準へ移行した。
だが、
人々の暮らしは続いている。
市場は開き、
船は出港し、
畑には芽が出る。
幹振動は、
低く穏やかだ。
かつての圧迫はない。
整理の気配もない。
ただ、
深い拍動。
例外調査局は報告をまとめる。
「世界樹構造:成長段階移行完了」
剪定ではなく、
融合による枝拡張。
未成熟枝は脱落し、
成熟枝は接合する。
向こう側の地層は、
こちらの土と馴染んだ。
荒野の欠損部は、
若い森へと変わった。
かつて消えた接続点の跡に、
細い幹の影が伸びている。
それは新芽だ。
世界は二つになったのではない。
太くなった。
畑で、
カイルはいつものように立つ。
侵入不可は戻らない。
だが、
問題はない。
誰も弾かれない。
誰も拒まれない。
土は普通だ。
作物は育つ。
ただ、
踏み込むと分かる。
奥行きが深い。
幹の鼓動が、
遠くで確かに響く。
エリオットがやって来る。
「記録は終わった」
カイルは頷く。
「で、どうなる」
「どうにもならない」
エリオットは空を見上げる。
厚い空。
黒い太陽と、
こちらの月が並ぶ。
「我々は枝だった」
「今は?」
「新枝だ」
剪定を逃れたのではない。
成長段階に入った。
孤立した世界ではなく、
世界樹の一部として。
その夜。
空の奥で、
さらに遠い枝が揺れる。
まだ接触していない枝。
未成熟の枝。
そして、
成熟を待つ枝。
世界樹は止まらない。
伸び続ける。
整理もある。
合流もある。
それでも、
成長は続く。
カイルは土を踏む。
何もしていない。
何も選んでいない。
ただ、
拒まなかった。
それだけで、
枝は伸びた。
畑の向こうに、
新しい丘陵が見える。
かつて存在しなかった景色。
だが、
違和感はない。
世界は壊れなかった。
救われもしなかった。
伸びただけだ。
静かに、
確実に。
新枝として。
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