第80話 世界樹
境界が消えてから、五日。
幹振動は静かな拍動へ戻った。
荒れない。
乱れない。
だが、
以前より深い。
セリーヌは全観測記録を重ねる。
荒野の消失。
白い裂け目。
融合波。
半径拡張。
全てを一枚の立体図へ投影する。
線が浮かび上がる。
一本の軸。
そこから伸びる複数の弧。
枝状の構造。
「……確定です」
彼女は静かに言う。
誰も笑わない。
誰も神話と切り捨てない。
観測値が、
その形を示している。
「世界樹構造」
エリオットが言葉にする。
枝は世界単位。
幹は支持構造。
接触は枝の合流段階。
剪定は未成熟枝の自然脱落。
竜は枝専属補助機構。
全てが、
一つの構造へ収束する。
「神ではない」
セリーヌが言う。
「設計者もいない」
自律構造。
成長する支持体。
その夜。
畑の中央で、
カイルは立っている。
空は二層。
黒い太陽と、
こちらの月が並ぶ。
土の奥が透ける。
今度ははっきりと見える。
巨大な幹。
無数の枝。
遠くで、
さらに枝が伸びている。
剪定跡が、
滑らかに光る。
そこから、
新芽が生まれている。
世界は孤立した球ではなかった。
一本の枝だった。
そして今、
別の枝と接がれ、
太くなっている。
カイルは息を吐く。
「でかいな」
恐怖ではない。
畏怖だ。
幹振動が、
わずかに強まる。
だが、
不安定ではない。
拍動は整っている。
融合は完了していない。
だが、
確定した。
世界は剪定対象ではなかった。
成長段階にあった。
管理社会は、
報告書をまとめる。
「世界樹構造仮説、暫定確定」
神話の語を使うが、
観測で裏打ちされている。
空の帯は消えない。
二層構造は常在する。
地平線は遠い。
海は深い。
枝は太くなった。
カイルは土を踏む。
侵入不可はない。
圧もない。
ただ、
深い鼓動。
彼は何もしていない。
止めてもいない。
導いてもいない。
ただ、
拒まなかった。
それだけで、
枝は伸びた。
世界は、
神に救われたのではない。
世界は、
自らの構造に従って成長した。
夜空の奥で、
さらに別の枝が揺れる。
世界樹は、
まだ伸びている。
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