第78話 隣枝の覚醒
融合波の余韻が残る夜。
空は、完全には元に戻らなかった。
黒い太陽は薄く、
だが確かに存在している。
星は二層。
奥に、もう一枚の天蓋。
「位相差……ゼロ点接近」
セリーヌの声は静かだった。
こちらが伸びただけではない。
向こう側も、
同じだけ近づいている。
幹振動が再び強まる。
だが荒れない。
整った波。
呼吸のような周期。
その瞬間。
黒い太陽の周囲に、
光の環が浮かぶ。
こちらの空に、
向こう側の地平が、
薄く重なる。
砂漠だったはずの地形に、
変化がある。
中央に、
細い光柱。
「接続点……形成」
リナが呟く。
向こう側にも、
受容点が生まれた。
荒廃していた枝が、
目覚める。
幹は押していない。
支えている。
双方が、
整合し始めた。
畑で、
カイルは目を細める。
地中の幹影が、
さらに鮮明になる。
巨大な枝が、
二つ、ゆっくりと近づく。
絡まるのではない。
接触面を増やす。
空が、
淡く白む。
昼でも夜でもない時間。
黒い太陽が、
わずかに明るさを増す。
こちらの月が、
その縁に重なる。
影が三重になる。
だが、
物質干渉は起きない。
衝突しない。
溶け合わない。
重なるだけ。
「双方向同期、確認」
セリーヌが深く息を吐く。
向こう側でも、
こちらの星が見えているはずだ。
観測はできない。
だが、
波形が一致している。
融合は侵略ではない。
共鳴だ。
荒野の欠損部に生えた再芽が、
わずかに伸びる。
向こう側の光柱と、
位相が揃う。
枝は、
折れずに接いでいく。
その瞬間。
黒い太陽の縁に、
巨大な影が横切る。
以前見た崩れた竜ではない。
形が整っている。
翼を広げる。
だが飛ばない。
静かに空に留まる。
「向こうの……補助機構?」
リナが息を呑む。
竜は、
枝専属だった。
成長段階に応じて、
役目を持つ。
こちらでは沈黙した。
向こうでは、
再起動しているのかもしれない。
幹振動が最大に達する。
空が、
わずかに歪む。
だが裂けない。
破断しない。
向こう側の光柱が、
太くなる。
こちらの再芽が、
応答する。
光が、
細い線となって空を渡る。
一瞬。
消える。
だが、
確実に接続した。
観測値が、
安定域に入る。
融合率、上昇。
エリオットは空を見上げる。
「これは……覚醒だ」
枝が、
自らの構造を理解し始めている。
神の意志ではない。
設計者もいない。
成長は、
内側から起きる。
畑で、
カイルは土を踏む。
重さは変わらない。
だが、
温度がある。
世界は、
孤立していなかった。
向こうもまた、
こちらを感じている。
枝は、
二つになったのではない。
一つが、
太くなり始めている。
夜空は、
深く、厚く、
そして広い。
融合は、
もう止まらない。
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