第75話 成熟
荒野の欠損から、十日。
幹振動は止まらない。
だが、
波形が変わっていた。
「これは……違います」
セリーヌが低く言う。
波形を拡大する。
これまでの振動は、
圧縮と解放の繰り返しだった。
押して、
戻す。
整理前の波形に近い。
だが今は違う。
引く波が混ざっている。
収束ではない。
伸張。
「剪定前兆波形ではありません」
リナが確認する。
「これは……」
セリーヌは言葉を探す。
「移行波形です」
枝は整理対象ではない。
伸びようとしている。
幹振動は、
切るためではなく、
接触角を変えるために強まっている。
夜。
畑の中央で、
カイルは立っている。
土の奥が光る。
これまでの暗い振動ではない。
深層で、
光の筋が走る。
幹の影が、
わずかに形を持つ。
巨大な柱。
無数の枝。
だが、
実体ではない。
位相投影。
カイルは目を細める。
恐怖はある。
だが、
拒まない。
幹振動が強まる。
星が遅れる。
白い裂け目が、
再び空に走る。
今度は細くない。
帯のように広がる。
裂けていない。
重なっている。
隣枝の空が、
こちらへ傾く。
黒い太陽が、
わずかに位置を変える。
「接触角、最小値」
リナが叫ぶ。
地平線が揺れる。
海が、
ほんのわずかに膨らむ。
崩壊はない。
破壊もない。
だが、
空間が厚みを持つ。
荒野の欠損部で、
小さな振動が起きる。
消えたはずの接続点の跡に、
細い光が走る。
「再芽……」
セリーヌが息を呑む。
剪定された場所に、
新しい位相線。
枝は、
死んでいない。
成長している。
畑の境界が揺らぐ。
侵入不可は、
薄くなる。
だが、
崩れない。
幹振動がピークに達する。
その瞬間。
空の帯が、
ゆっくりと安定する。
裂け目ではない。
重なりの固定。
黒い太陽が、
完全には消えない。
薄く、
だが確かに存在する。
第二光源。
世界が、
わずかに広がる。
重力が、
ほんのわずかに変わる。
観測器が震える。
「質量増加……?」
理論外の数値。
だが、
崩壊していない。
枝は折れていない。
伸びた。
エリオットが空を見上げる。
「剪定ではない」
誰も否定しない。
世界は、
整理される存在ではなかった。
成長する構造体だった。
カイルは土を踏む。
重い。
だが、
裂けていない。
幹の影が、
深層で揺れる。
巨大な何かが、
遠くで呼吸している。
恐怖は消えない。
だが、
崩壊ではない。
移行だ。
枝は、
次の段階へ入った。
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