第72話 隣枝観測
白い裂け目は、三日後に再び現れた。
今度は夜。
星が揃っているはずの位置に、
わずかな歪み。
細い線ではない。
円に近い。
空の一部が、
薄くなる。
「幹振動、ピーク接近」
リナが告げる。
セリーヌは無言で計測値を追う。
位相差が縮まっている。
枝同士の角度が、
過去最小。
畑では、
深層振動が上がる。
カイルは立っている。
土が沈む。
重い。
だが、
拒まない。
その瞬間。
空の円が、
ゆっくりと広がる。
向こう側が見える。
砂の大地。
黒く沈む太陽。
建造物の残骸。
崩壊した都市。
人影は見えない。
だが、
文明の痕跡はある。
「……成熟枝」
セリーヌが低く言う。
荒廃ではない。
整理後の状態に近い。
地層が滑らか。
断面が整っている。
「剪定済みの枝か」
エリオットが呟く。
向こう側の空が、
こちらと重なる。
風が一瞬混ざる。
砂が、
こちらへ舞う。
地面に落ちる前に消える。
完全接触ではない。
位相重複。
荒野の第二接続点が震える。
逆位相が走る。
裂け目が揺れる。
畑へ圧が流れる。
深層で吸収。
円が安定する。
「接触時間、五秒」
リナが記録する。
過去最長。
向こう側の空に、
黒い太陽が傾く。
光の色が違う。
温度も違う。
だが、
侵略の気配はない。
向こうもまた、
揺れている。
枝同士が、
互いに触れ、
離れようとしている。
その瞬間。
向こう側に、
巨大な影が横切る。
竜に似ている。
だが、
形が違う。
翼が崩れている。
骨格が露出している。
「竜の……残骸?」
セリーヌが息を呑む。
向こう側の枝では、
竜は整理されたのか。
あるいは、
役目を終えたのか。
円が揺れる。
幹振動が最大値に達する。
畑が沈む。
カイルは立っている。
恐怖はある。
だが、
動かない。
円が縮む。
向こう側が遠ざかる。
空が戻る。
星が整列する。
砂は残らない。
だが、
観測記録は残る。
映像は鮮明だ。
隣枝は存在する。
成熟し、
整理された枝も存在する。
「成長は止まらない」
エリオットが言う。
「整理も止まらない」
問題は、
こちらの枝がどの段階にあるか。
成熟か。
過成熟か。
あるいは、
まだ伸びている途中か。
畑の中央で、
カイルは空を見上げる。
「……あっちも立ってるのか」
誰かが。
同じように。
拒まずに。
空は閉じた。
だが、
世界はもう孤立していない。
枝は複数ある。
整理された枝もある。
そして今、
こちらの枝は、
隣に触れた。
次に触れたとき、
離れるとは限らない。
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