第71話 白い裂け目
それは、昼に現れた。
雲一つない青空に、
細い白線が走る。
最初は誰も気づかなかった。
光の反射か、
視界の錯覚か。
だが、
線は消えなかった。
ゆっくりと、
空を横断する。
「……あれは何だ」
街路で立ち止まる人々。
衛兵が空を見上げる。
線は細い。
だが、
不自然に真っ直ぐ。
そして、
ほんのわずかに揺れている。
例外調査局では、
観測値が跳ねた。
「幹振動、急上昇!」
リナが叫ぶ。
星は見えないはずの昼。
だが、
白線の周囲だけ、
光が薄い。
「枝間干渉、最大値」
セリーヌが即答する。
白線は、
裂け目ではない。
重なりだ。
隣枝との位相重複。
昼空に、
別の空が重なる。
白線が、わずかに広がる。
その奥に、
見慣れない色が覗く。
乾いた黄土。
黒い太陽。
一瞬。
すぐ閉じる。
だが、
確実に“向こう側”が見えた。
その夜。
畑でカイルは立っていた。
幹振動が強い。
深層から、
押し上げる圧。
白線が再び走る。
今度は夜空。
星の一部が、
裂け目に吸い込まれるように歪む。
畑の境界が揺れる。
侵入不可は維持。
だが、
深さがさらに増す。
「受け止めきれるか」
エリオットが低く言う。
カイルは空を見上げる。
恐怖はある。
だが、
抗わない。
白線が、
一瞬だけ太くなる。
荒野の第二接続点が震える。
逆位相が強まる。
跳ね返りが起きる。
だが、
畑へ流れる。
深層で吸収。
白線が細くなる。
完全には消えない。
だが、
広がらない。
街では、
人々が空を見上げ続ける。
管理社会は混乱しない。
封鎖も暴動もない。
だが、
隠しようがない。
世界は一枚ではない。
空は裂けうる。
セリーヌが呟く。
「枝の接触角が限界に近い」
整理か。
融合か。
どちらに転ぶかは、
まだ分からない。
だが、
選択の余地は狭まっている。
白線は、
完全には消えないまま、
夜に溶ける。
空は戻る。
だが、
人々の視線は変わった。
世界は閉じた箱ではない。
揺れる構造体だ。
畑の中央で、
カイルは土を踏む。
重い。
だが、
裂けてはいない。
白い裂け目は、
警告ではない。
証明だった。
枝は、
触れ始めている。
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