第67話 星の遅延
異変は、静かだった。
最初に報告したのは、
山間部の観測所だった。
「星が、遅れる」
意味が分からない、と添えられている。
夜空の観測は、
例外調査局の直接管轄ではない。
だが、
幹振動の観測を始めてから、
天体データも重ねていた。
「遅延、0.8秒」
セリーヌが言う。
特定の星だけ、
瞬きがわずかに遅れる。
常にではない。
幹振動が強まる瞬間だけ。
「観測誤差では?」
副官が問う。
「三地点同時観測で一致」
セリーヌは即答する。
夜空は一枚ではない。
その可能性が、
初めて現実味を帯びる。
さらに数日後。
別の観測所から、
追加報告が入る。
「星が二重に見える」
短時間。
一瞬だけ。
同じ位置に、
わずかにずれた光点。
重なって、
消える。
「枝間干渉」
リナが低く言う。
幹振動の波形と、
星の遅延が一致している。
「枝が揺れたとき、
隣接枝と接触している可能性」
セリーヌは言葉を選ぶ。
「接触というより、
位相が一瞬近づく」
枝は孤立していない。
接がれている。
ならば、
隣にも枝がある。
その夜。
畑の中央で、
カイルは空を見上げた。
一つの星が、
わずかに揺れる。
瞬きが遅れる。
その直後、
土の奥で振動が強まる。
畑は幹振動と同期している。
星の遅延も、
同期している。
「向こうがあるな」
独り言。
恐怖ではない。
確信に近い。
例外調査局では、
新たな計測が始まる。
星の遅延地点を線で結ぶ。
それは、
地上の接合線と一致する。
「枝の接触角」
セリーヌが数式を描く。
「角度が近づくほど、
干渉が強い」
干渉はまだ小さい。
破壊も崩壊も起きていない。
だが、
境界が薄くなっている。
「もし干渉が強まれば」
副官が言う。
「枝が融合する可能性もある」
エリオットは否定しない。
剪定だけではない。
接続もあり得る。
整理と成長は、
対立概念ではない。
幹振動が再び強まる。
星が二重になる。
一瞬、
夜空に“砂のような世界”が見える。
乾いた地平。
黒い太陽。
瞬間で消える。
観測記録に残る。
映像は曖昧だ。
だが、
存在は確かだ。
隣枝。
他世界。
呼び方はまだ決まらない。
その夜、
畑の境界がわずかに揺らぐ。
侵入不可は変わらない。
だが、
深層接続が強まる。
幹振動と、
星遅延が完全同期する。
畑は枝の末端ではない。
根元に近い。
干渉はまだ小さい。
だが、
枝は確実に近づいている。
整理か。
融合か。
成長か。
答えはまだ出ない。
だが、
夜空はもう一枚ではなかった。
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