第61話 剪定の痕
発見は偶然ではなかった。
例外の発生地点を重ね合わせた地図の下に、
古地層図を敷いたのは、
ダーレンの提案だった。
「負荷が接合線に集中するなら、
過去も同じはずです」
エリオットは反対しなかった。
掘削地点は、
山岳例外の南側斜面。
かつて小都市があったと記録される場所。
だが、
地表には何も残っていない。
掘削は静かに進む。
三層目。
四層目。
通常なら、
生活の痕跡が連続するはずだった。
だが――
「断層です」
観測官が声を上げる。
土層が、途切れている。
破壊の痕はない。
焼失も、崩落もない。
ただ、
**層が切れている。**
上の層は新しい。
下の層は古い。
間の百年分が、ない。
「消失……」
リナが呟く。
「いや」
ダーレンは首を振る。
「切断です」
掘削面は滑らかだった。
自然侵食ではない。
崩壊でもない。
**縫い直しの縁**。
エリオットは断面を撫でる。
「世界が……折れた?」
「正確には」
ダーレンは慎重に言う。
「切り落とされた」
剪定。
その言葉が、
初めて内部で共有される。
だが、
公式記録には載せない。
証拠はまだ足りない。
「この断面は、山岳例外の中心線と一致します」
観測官が報告する。
接合線。
負荷集中点。
例外発生地点。
過去にも、
同じ場所で起きている。
「周期ではない」
エリオットが言う。
「蓄積だ」
負荷が溜まり、
閾値を超え、
切断される。
破壊ではない。
再配置。
だが、
その範囲は大きい。
「文明はどうなった」
リナが問う。
ダーレンは沈黙する。
「記録が消えます」
「戦争ではない。
疫病でもない。
ただ、途切れる」
まるで、
枝を切り落としたように。
枝。
その比喩は、
今や誰も否定しない。
その夜、
畑の中央で、
カイルは土に触れていた。
土の奥に、
深い張力がある。
山岳の縫い直しと、
この畑が、
微妙に共鳴している。
竜は現れない。
空は軽い。
だが、
地の奥で、
何かが伸びている。
畑は、
接合点ではない。
もっと、
深い位置にある。
エリオットは断層を見つめる。
「竜は剪定者ではない」
静かに言う。
「ならば何だ」
答えはまだ出ない。
だが、
仮説は一つに収束し始めている。
世界は一枚ではない。
世界は、
接がれている。
そして時折、
切られる。
破壊ではない。
整理だ。
その痕が、
今も地層に残っている。
空は静かだ。
だが、
張力は限界に近づいている。
もし、
次の剪定が来るなら。
それは、
都市単位では済まない。
その予感だけが、
確実に積み上がっていた。
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