第62話 折れた枝
断層の解析は続いた。
削り出された地層断面は、
滑らかすぎた。
自然侵食ではない。
圧壊でもない。
「切断面」です」
ダーレンが言う。
「崩れたのではなく、
切られています」
エリオットは頷く。
「だが何が」
「そこが問題です」
掘削をさらに広げる。
断面は一定角度で続いている。
直線ではない。
緩やかな曲線。
「湾曲している」
リナが言う。
その曲率は、
都市単位では説明できない。
もっと大きい。
「この曲率半径は……」
観測官が計算を走らせる。
数値が出る。
室内が静まる。
「地平線規模です」
断面は、
局所ではない。
**世界規模の弧**だ。
「枝だ」
ダーレンが低く言う。
誰も笑わない。
比喩では済まなくなっている。
「枝が折れた」
エリオットは断面を見つめる。
「あるいは切られた」
文明は、
戦争で滅びたのではない。
疫病でもない。
枝ごと整理された。
「他にもあります」
ダーレンが地図を広げる。
断層地点を線で結ぶ。
それらは緩やかな弧を描き、
巨大な円環の一部を形成する。
「過去にも」
百年前。
三百年前。
五百年前。
同様の弧。
同様の断層。
同様の文明断絶。
「周期ではない」
エリオットが言う。
「負荷の蓄積に応じて、
枝が整理される」
「整理……」
リナが呟く。
破壊ではない。
混乱でもない。
**整理。**
その言葉が、
何よりも冷たい。
その夜、
畑でカイルは空を見上げていた。
星の配置が、
わずかに違う。
以前より、
一つ少ない気がする。
気のせいかもしれない。
だが、
土の奥に、
深い脈動がある。
枝が揺れる感覚。
だが、
折れてはいない。
まだ。
例外調査局では、
沈黙が続く。
「もし枝構造なら」
副官が言う。
「幹は何だ」
誰も答えない。
まだ早い。
だが、
前提は変わった。
世界は平面ではない。
世界は球でもない。
世界は、
接がれた枝の一つかもしれない。
そして、
負荷が溜まれば。
切られる。
竜は、
切断者ではない。
ならば、
何者だ。
空は静かだ。
だが、
軽さの奥に、
限界がある。
次の整理が来れば、
それは都市単位では済まない。
枝が揺れている。
折れる前に、
何ができる。
問いは生まれた。
だが、
答えはまだない。




