第55話 接触
例外調査局の紋章をつけた馬車が、
畑の前で止まった。
柵はそのまま。
侵入はできない。
だが、
畑の外で話すことはできる。
エリオット・ハルヴァンは、
柵の手前で足を止める。
「主任、ここまでです」
副官が言う。
「分かっている」
彼は柵を越えようとしない。
畑は、
侵入を拒む。
だが、
会話までは拒まない。
中央で、
カイルが立っている。
土に触れ、
何かを確かめるように。
「ハルヴァン主任だ」
名乗る。
肩書きを隠さない。
「カイルだ」
短い返答。
風は静かだ。
竜は現れない。
「いくつか確認したい」
「好きにしろ」
拒否ではない。
許可でもない。
「あなたは、
この畑で何をした」
「何もしていない」
即答。
「意図的な行為は?」
「ない」
嘘は感じられない。
「竜を呼んだか」
「呼んでいない」
エリオットは頷く。
予想通りだ。
「では、
なぜここだけが固定された」
沈黙が落ちる。
カイルは空を見る。
「越えたからだ」
「何を」
「線を」
第一部の記録と一致する。
人が踏み込み、
竜が現れ、
畑が固定された。
「では線がなければ、
固定されなかった?」
「分からない」
正直だ。
エリオットは視線を柵に向ける。
「例外は増えている」
夜が来ない村。
凍らない川。
縫い直された文明。
「ここは最初だ」
カイルは否定しない。
「観測点か」
「そうかもしれない」
観測。
その言葉に、
わずかな変化が生まれる。
「あなたは、
外へ出る気はあるか」
副官が息を呑む。
初めての提案だ。
「出ない」
即答。
「なぜ」
「俺はここに立っている」
それだけだ。
英雄ではない。
解決者でもない。
観測者でもない。
ただ、
立っている。
エリオットはしばらく黙る。
やがて言う。
「あなたは、
拒否しなかった」
「何を」
「固定を」
カイルは答えない。
だが、
否定もしない。
例外は、
強制的に起きたのか。
それとも、
拒まれなかったのか。
その違いは大きい。
空が、
わずかに重くなる。
ほんの一瞬、
圧が戻る。
副官が見上げる。
「竜……?」
現れない。
だが、
確かに空気が揺れた。
エリオットは理解する。
ここは接合点だ。
原因ではない。
だが、
張力が集中している。
「最後に一つ」
彼は言う。
「世界が縫い直されるとしたら、
あなたはどうする」
カイルは、
土を踏む。
「どうもしない」
それは逃避ではない。
選択だ。
「世界は俺のものじゃない」
エリオットは、
小さく息を吐く。
「合理的だ」
皮肉ではない。
むしろ、
最も危険な立場だ。
動かない者は、
世界の基準になる。
馬車が去る。
柵の向こうで、
カイルは立ち続ける。
夜は普通に来る。
だが、
世界のどこかで、
また一つ例外が発生した。
竜はまだ現れない。
均衡は保たれている。
だが、
張力は増している。
観測は始まった。
世界が何でできているのか、
誰もまだ知らない。
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