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農民の俺が育てた作物、なぜかドラゴンに跪かれて管理社会が崩れ始めました  作者: 森乃こもれび


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第52話 凍らない川

 北方領、グレイヴァルト。


 冬は厳しい。


 川は毎年、厚く凍る。

 子どもが走れるほどに。


 だが今年、

 凍らなかった。


 寒波は例年より強い。

 森は白く沈み、

 井戸水すら薄氷を張る。


 それでも、

 川だけが凍らない。


 湯気も立たない。

 温かくもない。


 ただ、

 凍らない。


「測定します」


 調査局の装置が並ぶ。


 水温、零度付近。

 気温、氷点下十二度。


 条件は揃っている。


 だが、

 氷結しない。


 棒を差し込めば、

 水は普通に割れる。


 掬えば、冷たい。


 だが、

 表面張力が“固定”されている。


 凍結の相転移が、

 起きない。


「局所的な物理定数の変化……?」


 若い観測官リナが記録を見つめる。


「それは仮説にすらならない」


 主任エリオットは淡々と答える。


「物理定数は変わらない。

 変わるなら、世界が崩れる」


 川の中央へ舟を出す。


 氷はない。


 だが、

 流れが一定の地点で鈍る。


 そこから先は、

 まるで水が“別の層”を流れているように、

 抵抗が変わる。


 舟が止まる。


「進まない」


 櫂は動く。

 水も動く。


 だが、

 位置が変わらない。


「……縫い目だ」


 エリオットが低く言う。


「何がです?」


「世界だ」


 川は凍らない。


 そして、

 ある地点から先へは進めない。


 侵入不可ではない。


 だが、

 進行不可。


 夜が来ない村と似ている。


 時間の縫い止め。


 今度は、

 相転移の縫い止め。


 報告が重なる。


 音が消える森。

 風が止まる丘。

 影が伸びない塔。


 共通点は一つ。


 破壊しない。

 攻撃しない。

 だが、

 法則が局所的に固定される。


「主任」


 リナが言う。


「これ、偶発じゃないですよね」


 エリオットは川面を見る。


 凍らない水面。

 氷点下の空気。


「偶発なら、もっと乱れる」


 今起きているのは、

 乱れではない。


 **選択的な固定**だ。


 まるで、

 誰かが世界を縫い留めている。


 だが、

 誰も縫っていない。


 少なくとも、

 竜は現れていない。


「畑の件と比較しますか」


 副官が問う。


「当然だ」


 畑は侵入不可。

 空間固定。

 竜顕現。


 夜が来ない村は、

 時間固定。

 竜不在。


 凍らない川は、

 相転移固定。

 竜不在。


「竜は……」


 リナが言いかける。


「原因ではない」


 エリオットが続ける。


「対処側だ」


 その仮説は、

 まだ口に出せない。


 だが、

 確実に近づいている。


 その夜、

 遠く離れた畑で、

 カイルは水を汲んだ。


 水は冷たい。


 凍る。


 いつも通り。


 だが、

 土の奥で、

 何かが微かに軋む。


 均衡が、

 一方向に寄っている。


 竜は現れない。


 空は、静かだ。


 世界は、

 崩れてはいない。


 ただ、

 縫い目が増えている。


 凍らない川は、

 破壊ではなかった。


 それは、

 世界の“固定の仕方”が

 変わり始めた証だった。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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