第46話 守られなかった夜
その夜は、風が強かった。
特別な兆しはない。
空も、いつもと変わらない。
残っているのは、三世帯とカイルだけ。
畑の上空には、
白銀のドラゴンが留まっている。
それでも、
人の世界の出来事は止まらない。
年配の夫婦の家に、
再び石が投げられた。
今度は窓だけでは済まなかった。
扉が外れ、
物置が荒らされる。
怪我人はいない。
だが、恐怖は残る。
「誰だ……」
震える声が、夜に溶ける。
助けを呼ぶ声は上がらない。
呼んでも、
誰が来るか分からないからだ。
独り身の女の家では、
井戸の桶が壊されていた。
偶然かもしれない。
だが、
偶然が重なりすぎている。
通報はされた。
役人は来た。
「証拠がありません」
「区域内ですから、
自己防衛を優先してください」
正しい対応だ。
加害者が分からない以上、
制度は動けない。
夜は、
ただ静かに過ぎていく。
畑は、
何も起こさない。
霧も出ない。
地面も動かない。
ドラゴンも、
視線を動かさない。
カイルは、
畑の縁に立っていた。
助けに行かない。
呼ばれても、
動かない。
それが、
最初から決まっていた線だった。
畑が守るのは、
畑そのものだけ。
人の生活は、
均衡の対象外になった。
年配の夫婦が、
翌朝、畑の近くまで来た。
「……あんたの畑は、
守られてるな」
責める口調ではない。
ただの確認だ。
カイルは、
答えなかった。
言葉にすれば、
残酷になる。
独り身の女は、
その日のうちに移転を決めた。
「仕方ないわね」
笑ってみせる。
誰も、引き止めない。
畑は、
何も言わない。
守らなかった。
選ばなかった。
ただ、
範囲を固定した。
夜。
ドラゴンの影が、
ほんのわずかに揺れる。
怒りではない。
裁きでもない。
均衡が、
一段、整っただけだ。
残るのは、
年配の夫婦とカイル。
二つの家と、一つの畑。
村は、
ほとんど空白になった。
管理社会は、
成功に近づいている。
問題件数は減った。
危険区域の人口も減った。
統計上のリスクは、
着実に下がっている。
その代わりに、
何が消えたのかを
誰も数えていない。
畑は、
完全に独立した。
人と共にあった時間は、
もう守られない。
守られなかった夜は、
静かに、
境界を確定させた。
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