第47話 選ばれなかった理由
残ったのは、年配の夫婦とカイルだけだった。
家は二軒。
畑は一つ。
村は、ほとんど空になった。
年配の夫婦の家の前に、
壊れた扉が立てかけられている。
修理はしていない。
直しても、
意味があるのか分からないからだ。
夕暮れ。
夫のほうが、
畑の縁まで歩いてきた。
「少し、話せるか」
カイルは頷く。
二人は、
柵の内と外に立ったまま、向き合った。
「俺たちはな」
夫は、ゆっくりと言う。
「お前の畑が、
悪いとは思っていない」
事実だった。
「だが」
言葉が、少し詰まる。
「守られなかった」
責める響きはない。
ただ、確認だ。
「畑は、守られている」
「竜も、そこにいる」
「だが、俺たちは」
そこで、言葉を切る。
カイルは、何も言わない。
「なぜだ」
夫は、はっきり問う。
「なぜ、畑は俺たちを選ばなかった」
選ぶ。
その言葉が、
静かな夜に重く落ちる。
ドラゴンは、動かない。
畑も、応えない。
カイルは、
しばらく土を見つめてから言った。
「選んでない」
短い答え。
「守る範囲が、決まってるだけだ」
夫は、目を細める。
「じゃあ、俺たちは範囲外か」
「そうだ」
嘘はつかない。
慰めもしない。
夫は、小さく息を吐いた。
「……それだけか」
「それだけだ」
救いはない。
理屈もない。
善悪の話でもない。
畑は、
畑を守る。
それ以上でも、それ以下でもない。
「お前は」
夫が続ける。
「それでいいのか」
カイルは、
少しだけ考えた。
「いいも悪いもない」
「俺は、ここに立ってるだけだ」
それが、
最初から決めていた線だ。
夫は、しばらく沈黙し、
やがて小さく笑った。
「英雄じゃないな」
「違う」
即答だった。
「助けると思った」
「助けない」
冷たい答え。
だが、嘘はない。
夫は、ゆっくり頷いた。
「……分かった」
怒らない。
恨まない。
ただ、理解した。
「選ばれなかったんじゃないな」
「最初から、対象じゃなかっただけか」
「そうだ」
それが真実だった。
夫は、背を向ける。
「明日、出る」
移転だ。
残る理由が、消えた。
「世話になった」
感謝でも、皮肉でもない。
事実だけが残る。
その夜。
ドラゴンは、
初めて、ほんのわずかに高度を下げた。
畑の上空で、
完全に固定される。
守る対象が、
完全に限定された合図だった。
翌朝。
年配の夫婦の家は、空になる。
残ったのは、カイルと畑だけ。
人は、いなくなった。
管理社会は、
問題を解決した。
人口ゼロ。
リスクゼロ。
統計は、美しい。
畑は、
完全に独立した。
守られなかった理由は、
残酷でも不公平でもない。
ただ、
範囲外だっただけだ。
カイルは、
畑の中央に立つ。
空には、ドラゴン。
人の世界は、遠い。
ここには、
境界だけがある。




