第41話 残る理由、去る理由
最初に動いたのは、役所だった。
朝、村の広場に人が集められる。
強制ではない。
命令でもない。
「説明会」という形だった。
「移転は、任意です」
役人は、はっきりそう言った。
「補償金も、住居の斡旋も、
希望者にのみ行います」
誰も、騒がなかった。
むしろ、
静かすぎるほどだった。
人々は、紙を受け取り、
条件を読む。
金額。
期限。
移転先。
そして、
小さく書かれた一文。
――指定区域内での営農は、今後保証されない。
保証されない。
禁止ではない。
だが、
続ける理由も、
守られる理由もない。
「……まぁ、
そうなるよな」
誰かが、
力なく笑った。
その日から、
村は二つに分かれ始めた。
移る者。
残る者。
どちらも、
声高に主張しない。
移る者は、
現実を選んだ。
「畑がどうこうより、
子どもがいる」
「仕事を失うわけにはいかない」
「正直……
怖い」
それは、
誰も否定できない理由だった。
残る者は、
理屈を言わなかった。
「……今さらだろ」
「ここで生きてきた」
「他に、
行く理由がない」
理由になっていない理由。
だが、
それが人生だった。
カイルは、
どちらにも、
声をかけなかった。
引き止めもしない。
説得もしない。
畑のそばで、
ただ、見ていた。
荷車が、
一台、また一台と出ていく。
振り返る者もいる。
振り返らない者もいる。
畑は、
何も言わない。
引き止めもしない。
ただ、
応えなくなっていく。
人が減るにつれ、
風の通り方が変わる。
足音が消える。
夜の匂いが、
深くなる。
残った村人の一人が、
ぽつりと言った。
「……畑が、
冷たくなったな」
責める声ではない。
気づいただけだ。
カイルは、
畝にしゃがみ込み、
土に触れる。
「……守る対象が、
減っただけだ」
誰に向けた言葉でもない。
畑は、
人を拒んでいるわけではない。
だが――
**守る必要がなくなってきている**。
その夜、
畑の上空で、
ドラゴンが、
ほんのわずかだけ動いた。
位置を変えたわけでも、
高度を変えたわけでもない。
ただ、
視線が、
村ではなく、
畑の奥へ向いた。
カイルは、
それを見て、
小さく息を吐いた。
「……そうなるよな」
人が離れ、
責任も離れ、
理由も離れる。
最後に残るのは、
畑そのものだ。
それを、
人の世界は、
まだ理解していない。
だが、
理解する前に、
次の選択が、
もう用意されていた。
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