第40話 正しい結論
会議は、短かった。
議論はすでに出尽くしている。
意見の違いも、整理されていた。
残っていたのは、
どの結論を選ぶかだけだった。
「現状を確認する」
領主は、低い声で言った。
「畑は、依然として人の管理下にない」
「ドラゴンは、攻撃していない」
「だが、存在するだけで秩序を揺らしている」
誰も否定しなかった。
「この状態を、
“放置”と呼ぶことはできない」
書記官が頷く。
「危険性は、未確定です」
「しかし、未確定であること自体が、
行政上のリスクになります」
それも、正しい。
「畑に直接手を出せば、
ドラゴンが反応する可能性が高い」
騎士団長が続ける。
「しかし、
周辺に影響が出続けるなら、
対応しないわけにもいきません」
誰も、
感情的な言葉を使わない。
怒りも、
恐怖も、
口にしない。
ただ、
責任だけが話題だった。
「結論を出す」
領主は、ゆっくりと言った。
「畑そのものには、
当面、介入しない」
空気が、わずかに緩む。
「代わりに」
次の言葉で、
再び締まる。
「周辺環境を、管理する」
誰かが、
小さく息を呑んだ。
「具体的には」
書記官が、淡々と読み上げる。
「畑周辺一帯を、
特別管理区域に指定」
「水利の再編」
「周辺農地の用途変更」
「居住者の段階的移転」
すべて、
法に則った手続きだ。
「畑は、触らない」
領主は、強調した。
「だが、
畑の周囲から、人を減らす」
それは、
妥協案だった。
攻撃ではない。
排除でもない。
環境調整だ。
「時間を稼ぐ」
領主は言う。
「ドラゴンが去るか」
「状況が変わるか」
「あるいは――」
言葉を切る。
「別の判断材料が、揃うまで」
誰も、
反対しなかった。
反対できなかった。
この結論は、
正しすぎたからだ。
通達は、
その日のうちに出された。
文面は、
柔らかい。
配慮に満ちている。
安全確保および生活基盤再編のため、
対象地域の住民に対し、
移転支援を実施する。
強制ではない。
だが――
選択肢は、ひとつしかない。
村では、
静かな混乱が起きていた。
「……移れ、ってことか」
「補償は出るらしい」
「仕事は?」
「分からん」
怒鳴る者はいない。
暴れる者もいない。
皆、
計算している。
損か。
得か。
そして、
畑のそばに残る理由があるか。
カイルは、
少し離れた場所から、
その様子を見ていた。
声はかけない。
説得もしない。
誰も、
間違っていないからだ。
畑の上空では、
白銀のドラゴンが、
相変わらず留まっている。
何も言わない。
何も止めない。
ただ、
見ている。
人が、
どんな結論を選ぶのかを。
カイルは、
畑に戻り、
土に手を置いた。
「……来たな」
畑の奥で、
深い動きがある。
守るべき対象が、
畑だけになりつつある。
それは、
人が選んだ結果だった。
空は、
まだ落ちてこない。
だが、
均衡は、確実に傾いた。
正しい結論が、
世界を、
一歩だけ壊した日だった。
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