第37話 排除命令と、空の重さ
決定は、早かった。
畑で起きた“事故”は、
その日のうちに文書になり、
翌朝には結論が出た。
当該区域は、
重大な危険性を内包する非管理領域と認定する。
住民および関係者の安全確保のため、
以後、
立入を全面的に禁止する。
必要に応じ、
強制措置を含む。
紙面は、冷静だった。
感情はない。
怒りも、恐怖も書かれていない。
だからこそ、
決定的だった。
カイルは、
その通達を、畑の中で読んでいた。
「……全面、か」
立入禁止ではない。
隔離だ。
ここに、人の世界は線を引いた。
見張りの数が増える。
柵が高くなる。
杭が打ち直される。
次に来るのは、
人を入れないための工事ではない。
人が近づけない状態を、固定する作業だ。
カイルは、
畝の間を歩いた。
土は、静かだ。
だが、もう引かない。
「……分かった」
そう呟いた、その時だった。
空が、
重くなった。
雲はない。
風もある。
だが、
何かが“乗った”感覚。
見張りの兵が、
空を見上げて呟く。
「……なんだ、これ」
音はない。
影もない。
それでも、
誰もが同じ方向を見る。
上だ。
畑の上空。
いや――
畑“だけ”の上空。
圧力が、
はっきりと分かれている。
柵の外は、いつも通り。
一歩内側は、
別の空だ。
カイルは、
ゆっくりと息を吸った。
「……来たか」
姿は見えない。
だが、
はっきりとした“意志”がある。
――人の世界が、
排除を選んだ。
――畑が、
自らを守ると示した。
――条件は、
すでに提示された。
だから今度は、
評価ではない。
介入だ。
畑の奥で、
深いところから、
何かが応える。
根でも、
作物でもない。
もっと、
古いもの。
空の重さが、
さらに増す。
兵の一人が、
思わず後ずさる。
「……これは」
誰も、続きを言えなかった。
言葉にできないからだ。
カイルは、
畑の中央に立ち、
空を見上げたまま、
静かに言った。
「条件は、もう揃った」
人が越えた線。
畑が引き返さなかった線。
その交点に、
竜は立つ。
世界は、
次の段階に入った。
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