第109話 静かな世界
あの日のことは、
誰も大きくは語らなかった。
世界が止まった一瞬。
音もなく、
風もなく、
すべてが動かなかった時間。
それは確かにあった。
だが、
過ぎてしまえば、
日常は戻る。
市場は開く。
船は港を出る。
森は広がる。
丘の観測所では、
記録が続けられている。
空には遠枝の灯。
星も変わらず、
夜を満たしている。
ただ一つ違うのは。
誰もが、
あの静止を知っていることだった。
恐怖ではない。
不安でもない。
ただ、
確かにあった出来事として。
受け入れている。
丘の上で、
子供たちが空を見ている。
「また止まるかな」
「分かんない」
「でも戻るよな」
軽い会話。
それで終わる。
世界は壊れなかった。
それが、
すべてだった。
カイルは畑で土を踏む。
どくん。
……。
どくん。
鼓動は続いている。
弱く、
ゆっくりと。
だが、
止まらない。
芽は伸びる。
森は広がる。
遠枝の灯も揺れている。
消えた枝もある。
残った枝もある。
それでも。
世界は続いている。
カイルは空を見上げる。
深い空。
遠い光。
知らない誰かの夜。
そして、
まだ見えない枝。
風が畑を渡る。
葉が揺れる。
土が柔らかく沈む。
カイルは何も言わない。
ただ、
そこにいる。
それでいい。
世界は、
それでも続くのだから。
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