第108話 再鼓動
鼓動は戻っていた。
だが、
以前と同じではない。
丘の観測所では、
波形が何度も重ねられている。
過去の記録。
合流後の記録。
そして今。
「ずれている」
セリーヌが言う。
振幅は小さい。
周期は長い。
だが、
それだけではない。
鼓動の間に、
わずかな揺らぎがある。
規則ではない。
乱れでもない。
余白のようなもの。
「……増えてる」
誰かが呟く。
枝が増えた影響かもしれない。
それとも、
一度止まった影響かもしれない。
答えはない。
ただ、
違っている。
畑で、
カイルは土を踏む。
どくん。
……。
どくん。
戻っている。
だが、
前より静かだ。
深く、
遠い。
森を見る。
木は伸びている。
だが、
以前ほど急ではない。
芽の伸びも、
少し遅くなっていた。
成長が止まったわけではない。
ただ、
落ち着いた。
丘の上で、
子供たちが空を見ている。
「さっき、止まったんだよな」
「うん」
「でも、戻った」
それだけの会話。
恐怖はない。
ただ、
事実として受け入れている。
空を見る。
遠枝の灯が、
いつも通り揺れている。
消えた枝もある。
残った枝もある。
そして、
新しく見える光もある。
カイルはしばらく空を見ている。
あの一瞬。
世界が止まった時間。
音もなく、
風もなく、
すべてが動かなかった時間。
その中で、
自分は動けた。
だが。
何もしていない。
何も変えていない。
それでも、
鼓動は戻った。
カイルは土を踏む。
どくん。
……。
どくん。
弱い。
だが、
確かだ。
エリオットが丘から降りてくる。
「結論は出ないな」
カイルは答えない。
「だが」
エリオットは空を見る。
「止まっても、続いた」
それがすべてだった。
世界樹は止まった。
それでも崩れなかった。
枝は落ちなかった。
すべてが消えたわけではない。
カイルは畑を歩く。
芽に触れる。
葉は柔らかい。
温かい。
世界は変わった。
少しだけ。
深く。
静かに。
そして。
鼓動は続いている。
どくん。
どくん。
前よりもゆっくりと。
だが、
確かに。
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