第107話 接続点
鼓動は戻った。
弱いが、
確かに続いている。
丘の観測所では、
倒れかけた器具が元の動きを取り戻し、
記録が再開されていた。
誰もが同じことを口にする。
「一瞬だった」
ほんの一瞬。
だが、
確かに止まった。
幹振動。
世界樹の鼓動。
それが完全に消えた時間。
セリーヌは記録を見つめている。
線が途切れている。
空白。
何もない一秒。
それが、
はっきりと残っていた。
「ありえない」
誰かが言う。
だが、
起きた。
エリオットが丘から畑を見る。
カイルはいつもの場所に立っている。
何も変わらない。
鍬も持っていない。
ただ、
土を踏んでいる。
セリーヌがゆっくり言う。
「中心だった」
誰もすぐには理解しない。
彼女は視線を落とす。
畑。
あの場所。
最初に竜が跪いた場所。
侵入不可だった場所。
接続点。
「鼓動が止まったとき」
セリーヌは続ける。
「ここだけ、消えてない」
カイルは何も言わない。
ただ立っている。
足元の土を踏む。
どくん。
弱い鼓動。
戻ってきた鼓動。
だが、
どこか違う。
セリーヌは紙に新しい印をつける。
枝図の中央。
小さな円。
それが少しだけ太く描かれる。
「接続が維持された」
幹が止まっても、
枝は完全には崩れなかった。
なぜか。
誰も答えを持たない。
だが、
一つだけ分かることがある。
あの場所。
あの畑。
そこが、
“途切れなかった”。
カイルは空を見上げる。
遠枝の灯が戻っている。
星も動いている。
風も吹いている。
世界は続いている。
何も変わらないように見える。
だが、
確かに違う。
鼓動が一度途切れた世界。
それでも続いている世界。
カイルは土を踏む。
何もしていない。
何も選んでいない。
ただ、
そこに立っていた。
それだけだ。
エリオットが静かに言う。
「接続点だったのかもしれないな」
カイルは答えない。
必要がない。
風が畑を渡る。
芽が揺れる。
鼓動が続く。
弱く、
ゆっくりと。
それでも。
世界は、
まだ繋がっていた。
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