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農民の俺が育てた作物、なぜかドラゴンに跪かれて管理社会が崩れ始めました  作者: 森乃こもれび


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第104話 枝震

 最初に揺れたのは、

 水だった。


 港の水面が、

 風もないのに波打つ。


 一定の間隔で、

 小さな波が立つ。


 船がわずかに揺れる。


 帆は張られたまま、

 風は変わらない。


 それでも、

 水だけが動いている。


「……なんだ、これ」


 船乗りが足元を見る。


 波は消える。


 そしてまた、

 同じ間隔で戻る。


 どくん。


 どくん。


 まるで、

 遅くなった鼓動のように。


 丘の観測所でも、

 同じ現象が起きていた。


 装置の針が、

 周期的に揺れる。


 幹振動と同じ間隔。


 だが、

 弱い。


 そして、

 揺れが外へ広がっている。


 セリーヌが顔を上げる。


「伝播してる」


 幹の鼓動が弱くなり、

 枝全体に“揺れ”として現れている。


 それはもう、

 観測値ではない。


 体感できるものだった。


 そのとき。


 地面がわずかに揺れた。


 ほんの一瞬。


 だが、

 確かに動いた。


 丘の上の望遠鏡が、

 わずかに軋む。


 観測員の一人がよろける。


「今の……」


 セリーヌは何も言わない。


 足元の土を見ている。


 カイルも畑で手を止める。


 鍬の刃が、

 土の中で震える。


 どくん。


 ……揺れる。


 どくん。


 また揺れる。


 鼓動と同時に、

 世界が震える。


 森の木々が、

 わずかにざわめく。


 風ではない。


 根元から、

 揺れている。


 鳥が一斉に飛び立つ。


 空を見上げる。


 星はある。


 遠枝の灯も揺れている。


 だが、

 その位置がわずかにぶれる。


 空も揺れている。


 エリオットが低く言う。


「枝震」


 枝そのものが、

 振動している。


 世界が、

 そのまま揺れている。


 それは地震ではない。


 地面だけではない。


 海も。


 森も。


 空も。


 すべてが同じ周期で震えている。


 カイルは土を踏む。


 鼓動が伝わる。


 どくん。


 ……揺れ。


 どくん。


 また揺れる。


 弱い。


 だが、

 確実に広がっている。


 セリーヌが言う。


「支えが弱い」


 幹振動。


 世界樹の鼓動。


 それが弱くなれば、

 枝を支える力も弱くなる。


 だから。


 枝は揺れる。


 世界が揺れる。


 それだけだ。


 それだけのはずだった。


 そのとき。


 これまでより、

 少し大きな揺れが来た。


 丘の地面が、

 はっきりと動く。


 観測器が倒れる。


 水の入った器が波打つ。


 遠くで、

 誰かの声が上がる。


 初めてだった。


 人々が、

 明確に異変を感じたのは。


 カイルは空を見上げる。


 遠枝の灯が、

 ゆっくりと揺れている。


 まるで、

 支えを失った火のように。


 どくん。


 ……。


 どくん。


 鼓動はまだある。


 だが。


 明らかに、

 弱くなっていた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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