第103話 空の歪み
最初にそれを見たのは、
丘の観測所の若い観測員だった。
「……星が」
声は小さかった。
誰もすぐには反応しない。
夜空はいつも通りだ。
遠枝の灯も揺れている。
星も多い。
だが。
「動いた」
その言葉で、
セリーヌが顔を上げた。
望遠鏡の横に走る。
鏡筒を覗く。
数秒。
何も言わない。
それから、
ゆっくりと息を吐く。
「見えた」
丘の上の全員が空を見る。
カイルも畑から顔を上げる。
星は変わらない。
遠枝の灯も同じだ。
だが。
そのときだった。
空の奥。
遠い星の帯が、
ほんのわずかに揺れる。
線が曲がる。
すぐに戻る。
ほんの一瞬。
誰も言葉を出さない。
セリーヌが記録紙に線を引く。
「位相ずれ」
幹振動の周期。
枝の張力。
遠枝の位置。
すべてがわずかにずれている。
エリオットが低く言う。
「枝が揺れている」
世界樹の枝。
それは世界そのものだ。
その枝が、
ほんの少しだけ動いた。
だから星がずれた。
遠枝の灯も、
わずかに揺れる。
カイルは空を見ている。
遠い灯り。
小さな火。
その位置が、
ほんのわずかに動く。
まるで、
水面に浮かぶ灯りのように。
セリーヌが言う。
「鼓動が弱い」
幹振動。
世界樹の鼓動。
それが弱くなれば、
枝を支える力も弱くなる。
だから。
枝が揺れる。
空が歪む。
それだけだ。
それだけのはずだった。
丘の草が揺れる。
夜風はいつも通りだ。
遠枝の灯も消えていない。
世界はまだ安定している。
だが。
ほんの一瞬。
星の並びが、
また歪む。
カイルは土を踏む。
どくん。
……。
どくん。
鼓動はまだある。
止まってはいない。
それでも。
空はもう、
完全には静かではなかった。
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