桃源郷の声
こんな時間に、桃源郷の入り口から子供たちの声がする
「さぁ、さ皆の衆。日も暮れた夢を語ろう!桃源郷のお時間だぜ~ぃ!!」
戦争で負傷し、働けなくなった父の代わりに家業を継ぎ、学業を諦めかけた少年。
戦火を逃れ、難民としてフロリバンダから来た子供たち。
スラム街で育ち、学ぶ機会がなかった青年など。
様々な事情を抱え、青空教室で学ぶ有志たちが、紙であつらえた派手な衣装を着て桃源郷の呼び込みをしていたのだ。
「ねえ、ファイアさん、俺にも聴こえるよ。夢を語る桃源郷の声が!」
ファイアの目から涙が溢れた。
子供たちが叫ぶ!
「あ! 焼豚先生だ!! お帰り!」
家業を継いだ少年が、
「先生がお腹壊していなかった時、桃源郷は火が消えたみたいに寂しかったんだ。このままじゃ駄目だって、俺たち気ついたんだ! 先生がいない間は俺たちがお城の門限時間まで頑張るから、安心して戦ってきてくれ! 必ず生きて帰って!!」
この少年は、ファイアが死に場所を探していることに気付いているのか。
スラムの青年も
「俺の街からも、安い金で雇われて大勢男たちが出兵している。先生たちも、連中も無事に帰れる様祈っていますよ!」
フロリバンダ難民の子供
「我は~、クラノス弁が付いていけんでさ~、偉かったぜ~ぃ。焼豚先生がようしてくれた~、今クラノス弁がおやっと使えるさ~、ありがた~!ありがた~!!」
ファイアは魔導や乗馬、役所の手続き、誰に何を教えても実に上手いのだ。
「なれ (君)が気張ったからさ~、我も教え映えしたぜ~ぃ」
「もしかして、焼豚の旦那の『さ~』とか『ぜ~ぃ』ってお国訛りか!?」
ギュッタとヨナタンは臨時閉店している蜜蝋ギルドに戻り、ファイアは城門の閉じる時間まで子ども達と一緒に桃源郷の入り口で呼び込みをやっていた。
夜が明け、3人はクラノス軍の基地からフロリバンダとの国境線へと旅立って行った。
ファイア、ウルヴァン、マスターが出兵し10日ほど経過した。
新緑の季節となり、山が美しい。
ギュッタは、心配事を心の片隅に置きながらマギ主任の秘書として業務をこなしている。
この前の仕事で稼いだボーナスで、中級の魔導教本を買い込み勉強は早朝から出勤時間までの間に集中させ、中級のおおよその知識は身についてきた。
「これなら、魔導上級修行資格者証が得られるかもしれないぞ」
ヨナタンは、ステファノ商会の厩舎に住み着き、ここから馬に乗り、クラノスやプリエト軍の教練に出向く毎日だ。
馬がいると、騎馬訓練や短距離の伝令など軍から仕事がもらえ、収入も安定したはずである。
狼亭は、バルバロッサ夫妻がやりくりをしている。
ウルヴァンの娘は主にバル婆が、公式ギルドはバル爺が担当している。
青空教室も、疲れ気味のバル爺を生徒たちが盛り立てている。
ギュッタも、勤めから帰ると大衆食堂の手伝いや、宿の清掃などの業務に就いた。
桃源郷の入り口は、輪番で青空教室の生徒達が、城の門限まで呼び込みを続けている。
蜜蝋は、ギルドは従来どおりマリアが頑張っている。
パブは…
モヒカンヘアがよく似合う、コケティシュな美女が臨時女将になっていた。
実は、小さな飛竜ハナに髪の毛を毟られた女魔導士である。
「何? ヘアスタイルがカッコいい? ありがとうよ、あの小娘には感謝だね」
皆、家族や友人の帰りを待ちながら、それぞれの日常を過ごしていた。
ギュッタがステファノ商会から家路につき、大通りに出たその時である。
新聞売りが号外を配っている!
「号外!! 号外だ!! フロリバンダ解放軍とクラノス軍王国連合が領土奪還したぞ!! 続きはこれ読んでくれ!!」
ギュッタはファイアの真似をして、素早く新聞屋から号外を受け取り、記事を読み始めた。
フロリバンダ解放軍、周辺の友好王国軍及びクラノス軍が、フロリバンダの国境を超え領土奪還に成功。
ヴォレイオス山の向かいの尾根の要塞ゲッセマネに、ザイオン軍が構える恐怖の砲台『地獄の火炎』 を西側友好国から潜入した特殊部隊が急襲し、砲台を全て破壊。
これを受け、ザンジバル中将率いるクラノス・フロリバンダ連合軍が進撃、激戦の末ゲッセマネ攻略に成功。
部分的ではあるが、ザイオン軍との対戦で領土奪還は、王国連合初の快挙。
という文面だった。
「ふ~ん、概要だけの記事だ。みんな元気かな? 狼亭に戻ったら食堂の手伝いだ」
何故だ?
ギュッタが狼亭に戻るとヨナタンが皿洗いしているではないか!
「だってよ、家族に仕送りして、シズクちゃんに専用ブラシと『新鮮飼葉』 買ったら、俺の飯代なくなったぜ!」
どうやらヨナタン愛馬の名前は、シズクに決めた様だ。
「号外持って帰って来たよ。作戦の詳細はないんだけど、領土奪還は成功したみたいだよ」
バル婆がギュッタの近くに寄って来て耳打ちした。
「食堂が終わったら、うちの連れ合いが夜の店番に来るから詳しいことは、ヨナと一緒に聞きな」




