夢の扉 2
ギュッタとその一行がプリエトに帰ると、ファイアはザイオンのアサシンから奪った馬をクラノス軍に高値で売った。
ギュッタに2頭分の分前、ヨナタンには1頭分の分前と1番大人しい馬を1頭与え、残りは自分の報酬として受け取り、ファイアは、更にザイオン勢の討伐報酬を手に入れた。
3人はクラノス駐屯基地の談話室でたむろしている。
「金持ちになって、念願の馬だぜ! 旦那、ありがとうよ!」
馬を手に入れたヨナが嬉しそうに礼を言うと、ファイアが
「ヨナ、浮かれている場合じゃね~よ。毎日の世話、厩の準備、馬に会えない時の世話人確保、物入りだ。無駄な支出はご法度だぜ~」
「ギュ、ギュッタどうしよう?」
「ヨナは俺の用心棒としてステファノ商会に雇われているだろ? 商会の厩舎が使えるよ」
ファイアはヨナタンに厳しく注意した。
「それ、確かめもせずに馬をくれだ? 馬は俺たちと同じ生き物さ。可愛いだけで飛び付いちゃいけないぜ~」
「大丈夫! マギ主任がいる限り全ての動物は愛護されます」
ファイアは、卒なくヨナタンの馬の手配をするギュッタを見つめ、
「お前、誰の秘書だっけ…」
ファイアは、重症を負った女魔道士の容態を救護院の担当医に伝えるため、クラノス駐屯基地に残った。
ギュッタはヨナタンを連れ、業務報告書の提出と厩舎の借用手続きをするためステファノ商会に向かった。
ギュッタは、ヨナタンの馬の厩舎借用手続きを手早く済ませ、毎日付けていた業務日誌から必要な所を抜粋し、あっという間にヨナタンの報告書まで仕上げマギ主任に提出した。
マギ主任から、敵国侵入者の討伐報酬がクラノス軍からステファノ商会に支払われ、ギュッタとヨナタンに臨時ボーナスが出ることが告げられた。
「ヤッホー! ギュッタ、ボーナスだぜ!」
「そうだね」
ギュッタは以前、ファイアと2人で直接アサシン討伐の報酬を受けたことがあるので
今回は、商会にマージンを取られ以前より金額が低いことを悟っていた。
「ギュッタ、反応薄いな。マギの旦那、こいつ本当に冷静っすよ。実戦2度目の新人とは思えぬ態度に、敵さんも慄きでしたぜ!」
「ヨナタン、ギュッタを私に推薦したのは誰だと思う? 『ウルヴェン・ザンジバル中将』だ」
ヨナタンは目を見張り、口をパクつかせるだけで声が出なかった。
「ギュッタ、ウルヴェン様より報告を頂いている。ウルヴァン・ザンジバル様、デーモン・マスター様、グレン・カーン様の出撃日程が決まった」
ファイアのカランビットナイフが完成した地点で覚悟はしていたが、ギュッタの胸が苦しくなった。
「お知らせ、ありがとうございます。予定はいつですか?」
「10日後だ。従って明日朝には旅立たれるであろう」
「あの…」
「分かっている。ギュッタ、ヨナタン、2人とも休暇を与えよう」
ギュッタは深々と頭を下げ、お礼を言おうとしたが、声にはならなかった。
ギュッタはステファノ商会の建屋を飛び出すと、まっしぐらに桃源郷へ駆けて行く、ヨナタンも後に続いた。
ギュッタとヨナタンは、プエリト3番橋を段飛ばしに駆け降り小さな広場に着くと、ウルヴァンが立っていた。
「待っていたぜ!! 早く来いよ! 今日の狼亭はバルバロッサ夫妻が預かるってよ!
蜜蝋パブもギルドも臨時休業で、今から俺たちの出陣パーティだぜ!!」
目から涙が溢れ、その場で脱力したギュッタはヨナタンに抱えられ、ギルドへと入って行った。
プエリトに来て最初に開けた夢の扉、酒樽の魔導結界の扉は既に開かれていた。




