あるべき姿
夜が明け、3人は馬に乗り村の教会に向かった。
道中でファイアが、ギュッタに尋ねた。
「昨日ドロシアが、酔ってないのに親父そっくりって言っていたけど、ギュッタが殴られた理由は何?」
ギュッタは吐いて捨てるように
「まさに『畑仕事をサボった』 て。今の俺ならともかく、地起こしの大クワなんて子供に扱えないし、親父が酒飲んで働かないから駄賃仕事で稼いで家に帰ると『どこに行っていた、畑仕事サボった』 てね。それでも金はしっかり巻き上げて飲んだくれ!」
ファイアは暫く頷きながら馬を歩かせていた。
「なあ…お前、大きくなったな~。今じゃ抱っこも、おんぶも絶対無理だぜ~」
ヨナタンは驚いて
「はあ!! あんたら、知り合ってまだ半年ちょい だろ!?」
ギュッタ
「俺、半年前は欠食児童だったフフフ」
ギュッタたちが村の教会に着くと、朝の祈りを終えた僧侶が玄関先を掃除していた。
ファイアは僧侶に声をかけた。
「ご免、デューの件でお話したいことがある。お時間を頂けるかな?」
僧侶
「おゝ、お客人達、どうぞ書斎に案内致します」
その時である、ギュッタを狙った石礫が飛んできた。
ファイアは素早く石礫を蹴り返すと、投げた犯人デューの向こう脛に命中し、デューは悲鳴を上げて地面に転げた。
ファイアは、デューに話しかけた。
「お前が投げた石だぞ、痛がるなよ〜。そんなに痛いことを、自分の兄にしようとしたのが分からないのか? …やはり分からない様だ」
ファイアは動こうとしないデューの首根っこを捕まえ、
「デュー、お前のことで話に来たんだぜ~。お前も来いや」
僧侶の書斎に連れて入った。
僧侶は呆然と今のやりとりを眺めていた。
ファイアはデューに、何故ギュッタに石礫を投げたのか尋ねるとデューは、
「兄ちゃんが全部悪い」
「全部じゃ分からねえよ~。少なくとも顔はギュッタよりお前の方ができは悪いぜ~?」
「違う! 兄ちゃんが畑仕事をサボった! だから父さんが嗚呼~!!」
「泣くな! 何言っているのか分からね~ぜ」
「お前に何がわかる!」
「分からねえから聞いているのさ〜。畑仕事をしないのが何故悪い?」
「兄ちゃんも姉ちゃんも、何処にも行っちゃダメだ!! 畑仕事!! 嗚呼!!」
ファイアは地団駄を踏み、全身で悶えるデューに、
「騒ぐな。言うことが聞けないのか? そうか…」
ファイアはデューの胃落ちに軽い当身を、喰らわせ気絶させると、 お茶を入れようとした僧侶は固まった。
「俺は根が野獣でね〜、手荒で申し訳ない。俺、野獣だけど医者の免除あるから言うけどさ〜。デューも、親父も『呪縛霊魂』 だ」
ファイアは怯える僧侶に丁寧な説明を始めた。
「デューと父親が暴挙を始めるタイミングが同じだ」
自分の居場所がない、自分にとって必要な人員がいない、自分のあるべき姿が保てない時である。
「他人のことが全く視野に入らないのさ〜」
僧侶
「どうすれば、治るのですか?」
「難しいね〜、生前から何かに魂が縛られている。親父も、自分のあるべき姿だった頃は大人しかったのさ~。世の中がデューにとってあるべき姿になれば…でも、それは…やっぱり難しいね〜」
ファイアはより詳しく述べた。
父親は妻が病死した悲しみより、あるべき状態を取り戻せぬ苛立ちで、酒に溺れた。
デューも、自分の居場所を追われ、ドロシアも自分にとってあるべき姿ではなかく、力ずくで元に戻そうとした。
ギュッタには心当たりがあった。
村の友達と遅くまで遊んでいると、他の友達は母親が迎えに来たが、ギュッタの迎えはいつも父親だった。
家族に優しく、よく働いていた頃から異常行動は既にあった。
父親が子煩悩だけではなく、人員欠如による不安だったことに、ギュッタは気づいた。
ファイアは沈んだ表情で、
「親父は解決したが。デューは成人すると、ままならない現実から逃避するため酒に溺れ、ドロシアに必ず暴力を振るうぜ〜」
デューは、自分より権力のある神父や親父には逆らわない。
ギュッタには、今は負けるが大人になれば自分と互角になるだろう、従って言うことを聞かない。
ドロシアは女だ、今は自分の方が弱いがいずれは、自分が確実に強くなるので、今から力で服従させようとする。
「デューは、馬鹿じゃないぜ〜、判断はある意味的確だ」
ギュッタは思い立ったようにファイアに尋ねた
「このままではドロシアの人生が台無しになりますね。カーンさん、弟を起こせますか?」
「うん。どうする気だ?」
「私は兄として、デューをあるべき姿にします」




