家族問題
ファイアは着付け薬を嗅がせ、デューを起こした。
ギュッタはデューの両肩をつかみ、
「デュー、聞け。家も畑も親父が酒と交換してこの世にはない! 兄ちゃんもドロシアも働いているからお前のそばには居られない! それが分からなければ、親父の所に行け! 少しでも前と同じ暮らしがしたければ親父と暮らせ!!」
ギュッタは、獣のように叫び続けるデューに畳みかけた。
「デューお前この間、あの家に入ったんだろ?」
デューはギュッタを睨みながら
「変な奴がいた! 追い出そうとしたら、憲兵に殴られた! 奴ら悪魔だ!!」
「違うぞ、デュー!! 親父は酒が欲しくて、あの人たちに家を売ったんだ!! 親父が酒と家を交換したんだ!! 全部あれは親父の酒代でお前の物じゃない!! それが分からなければ親父の所に行け!!」
ギュッタは耳を塞ごうとしたデューの手を耳から引き剥がし、同じことを繰り返し怒鳴り続けた。
「聞け! 何度でも言う! 親父が酒のために家を売ったんだ! 家はもうない!! お前に寄り添えるのは親父だけだ!!」
デューは、まるで何も聴いていないような無表情になり、他所を向いて動かなくなった。
「これから教区の修道院まで弟を連れて行きます、あれでも父は親権者ですから、責任を取らせます。大変申し訳ありませんが、ご同道ください」
ギュッタは、ファイアとヨナタンに深々と頭を下げた。
2人は快諾し、ギュッタは僧侶に向き直った。
「お坊様、自分の父を村追放に仕向けた私は、冷酷な息子でしょうか? 弟まで修道院で終生奉仕活動に追いやる私は、傲慢な兄でしょうか? 私を殺そうとした父、妹を苦しめ続ける弟のために自分の夢を諦めるのが、あるべき人の道でしょうか?」
僧侶は言葉を選びながら、
「ギュッタ…。お前に辛い選択をさせてしまい申し訳ない。この決断は…私がやるべきだった」
「ありがとうございます、お坊様。では、行ってきます」
ファイアが自分の馬に感情を失くしたデューを乗せ、3人はデューを父親のいる修道院に送り届け、デューと父親は修道院の荘園で奉仕活動をすることになった。
「ギュッタよ〜。もう、これ以上家族に気を砕くな。ドロシアへの手紙はヨナが書けよ~、へっへ。女がグサッとくる恋文の書き方教えてやるぜ~!」
ヨナタンは赤面し、落馬しそうな帰り道であった。
こうして3日間が経過し、ファイアはコークスから完成品のカランビットナイフを受け取り、帰りがけにコークスに話しかけた。
「親父よ~、この村の治安緩いぜ~。壁ない、憲兵は小さな駐在所だけ。世の中物騒だ、気をつけろよ」
「ああ、柵を作ると嫁が物干しにする、落とし穴を作れば、婆バアが肥溜めにするわで、上手くいかんのだハッハ…!」
どこの家族もそれなりに問題を抱えているようだ。
ファイアは新しいカランビットナイフを眺めながら、
「帰るとするか。お前達、盛大なお出迎えを覚悟しとけよ~。へっへ、早速試し斬りしてやるぜ~ぃ」
切っ先を舐めながら笑うファイアの赤い目が、より一層赤く光っている。
ギュッタにとっては、見たくない野獣剥き出しのファイアになっていたが…。
ヨナタンはさほど気にしていない
「旦那、明日の早朝のほうが助けも呼びやすく安全じゃないのか?」
我に帰ったファイアは
「だから今出るんだぜ~、この姿の俺をプリエトの憲兵どもに見られたくね~んだよ」
「なるほど、そっちの方が旦那にとっては、危険だな」
ギュッタ、ファイア、ヨナタンは、西ヘパイトス村を離れ、プリエトへの帰路についた。
重たく地味な展開になりましたが、ギュッタが魔道士として生きていきたいという強い気持ちを私なりに表現致しました。




