弟
3人が教会を後にした頃には、すっかり日が傾いていた。
ファイア
「丁度いい、鍛冶屋の親父は夜行性だ。これから行けば工房も空いているだろうよ〜」
暫く行くと鍛冶屋の工房の煙突から煙が出ている、どうやら刀鍛冶は仕事を始めた様だ。
工房の前に看板が立てられている。
『刀鍛冶ヘパイトスの恵』
工房の小さな扉からウルヴァンをもう一回り大きくしたような巨漢が出てきた。
身体は炭の様に黒く、目は金色で毛髪がなく異様な風貌だが、神格的威厳を感じる。
「俺が刀工、ヘパイトスの恵の主『コークス』 だ。…ん? やはり注文主はお前か。坊主、暫く見ない間に随分デブになったな」
「坊主て…。 あれから10年以上経っているぜ~」
コークス
「そこのガキども、一緒に入れ。甘い物を奢ってやろう」
全員子供扱いだ。
2人は旧知の仲で、ファイアは仕事で南の大陸に行った時に、カランビットナイフを入手したが、手入れの方法が分からず『ヘパイトスの恵』 を尋ねた時からの付き合いだ。
コークスはお茶菓子を全員に振る舞い、ナイフの形になった鋼をファイアに手渡した。
ファイアは、鋼を逆手に持つと何度も回転させ、振り上げたり下げたりしながら出来栄えを確かめた。
「問題なし。親父さんこれ、いつ仕上がる?」
「そうさな、坊主。後は研ぎ出すだけで…3日だ。退屈な村だが、暫くここで待ちな」
「うん」
「坊主! 返事は『はい』 だ」
「は~い〜」
「坊主! 違う『はい』」
ファイアはまるで反抗期の少年だ。
話が終わり、ギュッタたちは宿屋に戻って行った。
宿屋まで近づくとファイアが、
「おい、誰かランタン持って立っているぞ」
「ギュッタ、あれお前の妹じゃないか!」
言うが早いか、ファイアとヨナタンは馬をギュッタに頼むと下馬し、勢いよく駆けて行った。
夜目が効かないのはギュッタだけの様だ。
ギュッタは宿屋の厩に馬を繋ぎ、宿屋の玄関までやってきた。
ファイアはギュッタに妹がここに来た理由を説明した。
「ドロシアは弟のデューのことでギュッタに相談があるんだよ〜。ドロシア、こんな遅い時間に屋敷を出て大丈夫なのか?」
「はい。奥柄様に兄がこの宿にいることを伝えましたら、ここに来て構わないと言ってくださったので、参りました」
ヨナタンは軽く胸をはり、
「立ち話もなんだ。俺たちの部屋に案内するぜ」
「ギュッタ、馬の手入れ頼むわ〜。 痛て! こら、ハナ何する! 馬の世話は自分でやれ!? 分かったよ、分かった! ヨナ、お前も馬の世話だぜ〜!」
ファイアは、空から飛竜のハナに首根っこを掴まれながら、ヨナタンをせき立て、厩に向かった。
ギュッタはドロシアに小銭を渡し
「2階の部屋だ。このギルで晩飯を一人分追加してくれ、後で行くよ」
ドロシアは頷くと、宿屋に入って行った。
「ファイアさんもヨナも、若い女の子見るとテンション高いよ。フフフ」
3人は馬の世話を終え、宿屋の2階に上がった。
「俺たち、兄ちゃんの友達さ~。柄悪いけど怖がらないで、話を聴かせておくれ~」
「ありがとうございます。弟が最近荒れて…父さんがいなくなったから、しばらくは仕方ない、時間が経つと収まるって思っていたのに…」
「兄ちゃん、見捨てた訳じゃないよ。 ドロシアが、親父にプリエトの娼館に売り飛ばされない様に奉公に出して、デューは親父に殴り殺されないように教会へ預けたのに、何が不服なんだ…あいつ!」
「あの子、いつもと違うことが起きるのが大嫌いで、父さんに殴られて大怪我しても、家に帰ろうとしたの。」
ドロシアは話を続けた。
今では父親の借金で土地も家も人手に渡り、本人は酒毒で村人に暴力を振るい、他人の田畑を荒らした罰で、修道院で終生奉仕である。
デューは、勝手に元の家に行き住民を追い出そうとして、僧侶を困らせることもあった。
更に、ドロシアが安息日の礼拝に行くと
デューが『変な服を来て、畑仕事をサボっている』 と言いドロシアの服を破こうとした。
礼拝中にも大声で『お家に帰らないとダメだ』 と言って、腕を掴んで教会から出そうとして騒ぐ有様だ。
最近は、村長の屋敷の礼拝堂で村長の家族と共にミサに参加している。
「こうなったのは、父さんのせいなのに。あの子! 『兄ちゃんが、畑サボったから』 て! 酔ってないのに父さんそっくり…」
ドロシアは泣き崩れ、誰も口がきけなかった。
沈黙を破ったのはファイアだった。
「ドロシア、辛かったね。明日、俺たちが坊さんの所に行って何とかするさ~。夜道は危ない、俺が馬で屋敷まで送ってやるぜ~」
「それは俺が!!」
「ヨナは二人乗りできるほど乗馬上手くないだろう? ここはカーンさんに送ってもらおう。 俺は、後ろから着いて行ってカーンさん監視するよ」
「俺も監視する」
若い娘に振り回される男3人であった。




