地獄の火炎
ギュッタが帰宅すると既にパブは閉店し、ウルヴァンは店の掃除をしていた。
ウルヴァン
「お帰りギュッタ! 今日は大変だったな、あの焼き豚のお陰で!」
ギュッタ
「いいえ、逆に嬉しかったんです。 あの……」
言葉に詰まったギュッタの後をウルヴァンが続けた
「どうした? 聞きたいことがある、ファイアが…わかった」
ウルヴァンは掃除を済ませると、店番に来たバル爺に後を頼んだ。
ウルヴァンは2人前の夕食と蝋燭を手に、宿屋の食料庫の地下室までギュッタを案内した。
「ギュッタ、食べながら聞け。夏至の頃にザイオンが、プエリトに侵攻する」
ギュッタは再び戦が始まり、多くの人の命や自由が奪われ、ギュッタ自身も上級魔道士を目指し、ヴォレイオス山で修行する夢が遠のくのが分かった。
ウルヴァンはさらに
「ザイオンの進撃を止めねばならない」
事前情報や、ファイア・レッドを暗殺しようとしたことを考慮すると、ザイオンの兵器はドワーフの圧縮ガスを発火させる魔導器『地獄の火炎』 で間違はえない。
そこで、火に強い装備をする必要性があるのだ。
ギュッタは何故自分が火炎の魔導を唱え続けているのか納得した。
ウルヴァン
「守りだけでは勝てん」
ギュッタ
「迎撃するのですか? 大陸屈指と謳われたフロリバンダ騎士団も、為す術もなく破れた『地獄の火炎』 に?」
ウルヴァン
「しない」
ギュッタ
「え! どうするのですか?」
ウルヴァン
「俺とファイア、マスターで先手を打つ! 今は嘱託軍人だが、まだ遊撃1個中隊を直属で抱えている。それにどんなに強力な武器でも弱点はある。6年前にファイアと俺がザイオンに潜入し、この目で見て来たんだぜ!」
ギュッタ
「ウルヴァンさん、お声が大きいですよ」
ウルヴァンは慌てて口を塞いだ。
「何が弱点かは今言えねえんだ。 でも、火炎魔法は大事なのはわかっただろ?」
ギュッタ
「はい、ウルヴァンさん。 ありがとうございます」
ギュッタは自分の部屋に戻り、床に就いたが眠れなかった。
ウルヴァンが言明したということは、ファイア、マスター、ウルヴァンの3人が出兵する。
親しい人の命が危険に晒されるのだ。
ふと気配を感じ、窓を開けると
「ギュッタ、まだ起きているのかい? 寝なきゃ、明日も仕事だ」
黒装束のファイアだ。
ギュッタは苦笑いしながら
「誰が俺を不眠にしたんだよ、その格好『仕事』 じゃない」
ファイアはギュッタの手を取り
「うん、ギルドで交渉。仕事はもう少し、先だ。では、良い夢を」
そう話すと、ファイアは闇に消えて行った。
ファイアたちは去年晩秋にザンジバルの依頼クエストで、フロリバンダ要人をクラノス領内、フロリバンダ解放軍キャンプへの移送を請け負っていた。
「ファイアさん、今日も多分3人の代表で交渉したんだろうな。また、危険な仕事をするんだ」
ギュッタは気分が暗かったが、ファイアの声を聞くと安心したのか眠りに着くことができた。
翌日からギュッタは、仕事に打ち込んだ。
仕事が終わると先輩のヨナタンと夕飯を食べに行ったり、桃源郷でファイアにその日の出来事を話したり、ギルドで魔導教本を借りたりしていると、1週間が過ぎていた。
安息日はウルヴァン親子と一緒に、桃源郷の小さな広場で教区の僧侶が催す青空礼拝に参加し、ギュッタは、日々の平和と親しい人々の無事を心から祈った。
礼拝の後はマスターやマリア、他の店主たちや青空教室の子供達と歓談を楽しんだ。
プリエト3番橋の下で独りになると、ギュッタは物憂くなった。
「この平和な日常が、ずっと続けばいいのに…」
誰かがギュッタに声をかけた
「だから、頑張って来るよ。もう少し、先だけどね」
声をかけたのはマスターで、ファイア、ウルヴァンも来ていた。
ファイアも言葉を続けた
「俺には聞こえるんだ、『夢を語る桃源郷』 の声がね。俺の仕事は、それがいつまでも続く様にすることさ~」
ギュッタは3人に取り付いた。
「必ず戻って来て!!」




