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最後のハイエルフは甘いものがお好き  作者: ほむら


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48 火焔の愛し子

大変長らくお待たせ致しました。

体調が優れず中々投稿出来ませんでした。



あらすじ:フェンリルの里でマルローンタフィーを堪能したリーシャ達

久しぶりに甘味を堪能したリーシャは大満足であった。

そんなリーシャにイムダは「どうぞ」と木製のコップを差し出した。

中には透明の液体が入っており湯気が立っている。

「ありがとう」と礼を言って受け取るとほんのりと温かい。湯気から漂う爽やかな草花の香りにリーシャは頬を緩める。


「ほう、この香りはマルローンの花か?」

「流石ハイエルフ様。その通りです」


微かに先程食べたマルローンタフィーと似た香りに気付いたのだ。


「マルローンは樹液は甘く栄養があり、魔力を貯めた黄金色の葉と白い花は煎じて湯を注げば魔力と共に溶け万能薬になるのです。かつてエルフ族が愛した理由です。まぁ、万能薬と言うと大袈裟で風邪の予防や体調を整える程度ですけどね」


イムダの話を聴きながら口に含むと少しとろみがあるが殆ど味はしないが、鼻に抜ける爽やかな葉と柔らかな花の香りを少し感じた。

そして口の中に残るマルローンタフィーの甘さが解けるように喉に流されさっぱりする。

アキッレ達もマルローン茶のスッキリとした爽やかさを味わっていた。




「ハイエルフの里には無いマルローンがこんなにも素晴らしいものだったとは...里を出なければ知ることも出来なかったな」


一息ついたリーシャが感慨深い様子で言葉を零すと、それを眺めるイムダは笑みを浮かべた。

というか出会ってから一貫して彼はその笑みを崩していない。

そんなイムダはリーシャの言葉を拾い大袈裟に両手を広げた。


「【ハイエルフの里】ですか。曾祖父達から伝え聞いた【ハイエルフの里】は、世を捨て姿を隠したハイエルフ様達が世界で最も奥深い古代の森で原始の精霊や動物達と暮らす桃源郷であると。

彼の地にも無いマルローンの素晴らしさを若きハイエルフ様にお伝え出来たことは(アイス)エルフとして何よりも誉れです。

我ら氷エルフはマルローンの守り人ですから。


遥か昔ハイエルフ様達が世界から姿を隠したあと残された我々エルフ達の祖先はは大いに嘆きハイエルフ様達を探し世界中へと散りました。

そんな中、我ら(アイス)エルフの始祖はハイエルフ様から託されたマルローンの森を絶やさぬため寒さの厳しい北の地へと移り住んだのです」


意気揚々と話すイムダにリーシャは厳しい視線を向けた。


「そうか、氷エルフ達は困難な役目を負ったのだな。しかしマルローンの森を守るためというがこの地に氷エルフはお主しか居ないようだな?

まぁ、何よりもお主はアイスエルフではなく()であろう」

「元?」


確信を持ったリーシャの物言いにペロ達は完全にはてなマークを浮かべていた。

()氷エルフと言われた当人のイムダは笑みを浮かべたままで表情一つ変わらず、リーシャの突き刺さる視線を受けながらも彼は飄々としていた。


と、その時大地から唸るような音が聴こえた。

マルローンの枝が揺れ始める。


そして音は大きくなり直後に立っているのが困難な程、大地が大きく揺れた。


「うわっ!」

「にゃにゃにゃー!」

「ひいぃっ!」


リーシャはアキッレの腕を掴んで引っ張りしゃがみ込んだ。

ペロとラタトスクを空いた手で抱えるようにして抱き寄せる。

空を飛んで大地の揺れから逃れたフギンとムニンはリーシャの頭上で守るようにホバリングしていた。


それはほんの十数秒の事であったが、リーシャ達にはとても長く感じた。

顔を上げればパラパラとマルローンの小枝や葉が大地に舞い落ちているが、マルローンのドームは崩れてはいなかった。

恐ろしい揺れであったが、マルローンは大地にしっかりと根付いており影響はさほど無いようだ。


『ふむ、前回より早いな(・・・)


【天の星飲み】は北の方角を睨むようにして呟いた。


「ハイエルフ様、色々と疑問がある事でしょう。しかし今は私と【天の星飲み】殿は急ぎ向かわねばなりません。少々お待ち頂きたい」


リーシャにそう告げたイムダの顔からその時初めて笑みが消えた。



「いや、わたし達も共に行こう。そこに行けば答えがあるのだろう?」


リーシャのその言葉にイムダは苦しいような悲しいような表情を僅かに見せたが、それを隠す様に【天の星飲み】の背に飛び乗った。

【天の星飲み】はリーシャ達をじろりと見遣り、そしてイムダを一瞥する。

イムダが【天の星飲み】の背から手を伸ばした。


「フェンリルの脚は速いですよ」


リーシャはその手を掴みもう片方の手でアキッレの腕を引きながら軽やかにフェンリルの背に跨った。

アキッレの背中にはペロとラタトスクが必死にしがみついていたが、風の上位精霊シルフィが手助けしたのだろう、抵抗無くふわりとフェンリルの背に着地する。


それを見てイムダは少し目を見開いたが、直ぐに前を向いてしまった為にリーシャのドヤ顔は見ていなかった。


『落ちるなよ』


ふんすっと鼻を鳴らし【天の星飲み】が駆け出した。

フギンとムニンはリーシャの上を羽ばたいて着いて行く。

フェンリルの能力なのか風の抵抗や揺れは殆ど感じず、瞬きをする間にマルローンのドームを出て森の中を凄いスピードで駆ける。


生い茂る大木がまるで【天の星飲み】を避けているかのような錯覚を起こす。

リーシャがシルフィの力で空を駆けるよりも遥かに速い。

リーシャは猛スピードで移り変わる景色を楽しみながらこの先に何があるのか考えていた。


アキッレに抱えられたペロとラタトスクは飛ばされぬ様必死にしがみついていたが、風の抵抗も無く足元や腰に【天の星飲み】の白銀の長毛が生き物の様に絡みついてきた。

焦りはしたがお陰で振り落とされる心配が無くなったので景色を楽しむことにした。

アキッレだけはこの後受けねばならない試練の事を考え今一度顔を引き締めた。



フェンリルの里は広かった。


マルローンの森を抜け、針葉樹の森を二つ抜け、なだらかな丘を三つ越えて更に巨木の森へと駆け巡る。


黒い木肌の巨木は樹齢千年を超えるものばかりで真っ直ぐに伸びている。一番低い枝でも五メートル以上の高さにあり、その頂きは殆ど三十メートルを超えていた。

リーシャはそれが精霊の居なくなった古樹であると気付いた。



しかし、何かがおかしいとリーシャは感じた。



普通は精霊が宿っていた古樹は精霊が居なくなると枯れてしまうが、まだ枯れる様子は無い。寧ろこの寒さの中でも伸び伸びとしているように見えた。


そうして微かに見えたのは火の精霊達ーーー


薄暗い雪雲に覆われたこの厳冬の大地で火の下級精霊達が活き活きとしていた。

リーシャはふと前方から強い精霊の気配を感じ取る。

そしてリーシャ達を乗せた【天の星飲み】がゆっくりとスピードを落とし始めると冷たく吹く風に紛れ熱い風が吹いた。

【天の星飲み】がその脚を止める頃には辺りはとても冬の大地とは思えぬ程熱さを感じた。


【天の星飲み】が低く屈んでくれたのでリーシャ達がその背から降りるとフギンとムニンがその肩に留まった。


前方の黒い大地には数百メートルにも及ぶ大きな亀裂があった。


その亀裂からは水蒸気が立ち上っており強い熱気はそこから発していた。

その亀裂に向かって火の精霊達が狂った様に飛び込んで行く。

火の精霊達は正気を失っている様に見える。


そしてその亀裂からはとてつもなく多い精霊達の気配と、強烈な火の力をリーシャは感じ取っていた。


じんわりと額に汗を浮かべたリーシャはその亀裂に誘われる様に近付いて行く。

その後を【天の星飲み】とイムダが続いて行った。


異様な熱さに呆気に取られていたアキッレ達も慌ててその後を追う。


水蒸気が天高く立ち上るその大地の亀裂は広い所で幅50メートルはあった。

リーシャはそのギリギリまで近付いて行くと、その横を火の精霊達はハイエルフであるリーシャに目もくれず亀裂の底へ次々と飛び込んでゆく。


精霊達にとってハイエルフは愛し子であり放っておけない存在であり、こうして完全に無視されるのはリーシャにとっても初めての経験であった。


この亀裂の底にあるものはとてつもなく異常なものであるとリーシャは確信した。


そうしてリーシャは亀裂のギリギリまで脚を踏み入れ底を覗き込んで息を飲んだ。



とてつもなく深い亀裂の中では、底へ向かって尋常ではない速さで氷が奥底へと向かって形成されていた。

しかしその深い奥底には真っ赤なナニカがあり火の精霊達はソレに嬉々として向かって火の力を強めていき向かってくる氷を同じくらいの勢いで溶かし水蒸気を立ち上らせていた。



「アレは、一体何だ...」


氷の中で燃えるソレがもそもそと動いた。

よく見ると赤いソレは人の赤子に見える。


その答えは隣に立ったイムダが苦しそうな顔で告げた。


「あれは...いえ、あの子(・・・)の名はスルト。火焔の愛し子であり愛する我が子です」




次話は今月中に投稿出来ると思います。


ブクマ、評価など頂けると作者は喜びます♪

亀の歩み以下の投稿速度なのにブクマしてお待ちくださる皆様に大変感謝しておりますm(_ _)m

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