47 タフィー
お待たせしました。
遅い筆と書いてほむらと読むことになりました(嘘)。
あらすじ:フェンリルから試練を受ける事になったアキッレをリーシャは見守る。
「はいはい。小難しい話もとりあえず移動しましょうよ」
突然場の緊張を崩す気の抜けた声を出したのは氷エルフのイムダ。
頭上からじろりと向けられた巨狼の紅い瞳に怯むことも無くイムダは飄々とした佇まいで笑みを浮かべたままリーシャ達を見やる。
リーシャと視線が合わさるとニヤリと口角を上げた。
「『天の星飲み』殿。我々は馴れていても麗しき至高のハイエルフ様をこんな寒空の下で放置は出来ませんでしょう。『天の星飲み』殿もそこのハティの少年も先ずは軽く腹拵えしてからでも試練は良いのでは?」
『ふん、良いだろう』
フェンリルはふてぶてしいイムダを一瞥して鼻を鳴らしイムダの申し出を受けた。
「では、ご案内致します」
笑顔を貼り付けたイムダが丁寧にリーシャ達に会釈するがその眼は全く笑ってはいなかった。
リーシャ達はフェンリルとイムダを先頭にマルローンの森へと足を踏み入れる。
霜柱をザクッザクッと踏み締めながら森の中を進む。
強い風が木々をすり抜ける低い音とガサガサと枝が擦れる音が聴こえる。
リーシャは住み慣れたハイエルフの里の森や里を出てから見て来た森との違いに眉をひそめた。
森であれば鳥や動物達の気配や息遣いを感じるのだがこのマルローンの森は生命の気配が殆ど感じられない。
まるで森が眠っているように思えた。
マルローンの森は銀色の木肌とチラチラと降る雪が僅かな光を反射し深い森でありながらも普通の森よりは明るいのだが、それでも薄い雲に覆われた陽の光は届かず薄暗く得体の知れない不気味さがあった。
森の奥へ進むと少しずつ雪が足元に積もり始める。
しかしフェンリルが踏み締める度に雪がふわりと道を空ける様に左右に舞うため薄らと残るだけなので歩き辛くはならなかった。
雪や氷を自在に操るフェンリルの長『天の星飲み』のさり気ない気遣いであろう事は皆気付いていた。
そうした中、時折離れた木々の間の暗闇に複数の紅い光がチラチラと目に付いた。
それは付かず離れず一定の距離を空けたまま着いてくる。
気配は無く殺気も無い。
しかし確実に何かが居る。
ペロやラタトスクはその不気味さにビクビクしながらリーシャに張り付いている。
恐らくその正体はフェンリル達であろう。
長である『天の星飲み』が案内をしているため近寄っては来ないがリーシャ達への警戒を解いては居ないのだ。
気配を断ちながらも存在を匂わせている。
隙あらば獲物を狙う獣達。
『天の星飲み』が理知的であったので話が通じると安心していたが神獣とはいえフェンリルは肉を喰らう獣なのだ。
神性とともに野生の獣性を持つのが神獣である。
アキッレも冷たい汗を背中に感じながら口を真一文字にして顔を引締め、前を歩く『天の星飲み』だけを見詰めていた。
フギンとムニンは姿を見せないフェンリル達を忌々しそうにしていたが無言でリーシャの傍を離れずに飛んでいた。
ある意味鈍ちんのリーシャは始めは生物の気配が少ない森に対して寂しそうな顔をしていたが、頭を切り替えこの後ご馳走になる食事を楽しみになりニコニコと御機嫌であった。
周りを彷徨いているフェンリルにいち早く気付いたが襲う気配が無いので気にも止めていなかった。
魔法でリーシャ達の周囲の風を遮る風の上位精霊シルフィはそんな通常運転の主に生温かい笑みを浮かべていた。
1時間程歩くと少し開けた場所に、幾つものマルローンの大樹が不自然に根元から捻れ門をつくるように折り重なり伸びた枝が複雑に絡み合い半円形のドームを型どっていた。
その入口は巨体であるフェンリルも余裕で入れる程大きい。
『天の星飲み』は無言のまま入口の中へと消えていく。
イムダがふと立ち止まりリーシャ達に振り向いた。
「ようこそ。ここはマルローンの精霊がフェンリルの長である『天の星飲み』殿のために作られた祠です。ちなみに私も此方に住まわせてもらっています」
先に無言で入っていった『天の星飲み』をフォローするかの様なイムダにリーシャ達はドームの中へと案内された。
入口は大きいのに外からは真っ暗にしか見えなかった。一歩踏み入れると魔力が身体を突き抜ける。結界が張ってあったのだろう。
中へと入るとマルローンの銀色の木肌がキラキラと白く淡い光を放って意外にも明るかった。
地面はマルローンの根で覆われでこぼこしていて少し歩きにくい。
壁や天井はマルローンの幹と枝が捻れ絡み合い金色の葉が茂り隙間無く埋めており外気は遮断されているが空気は澄んでいた。
奥では少し高く盛り上がった太い根の上に『天の星飲み』が身を屈め頭だけ上げてリーシャ達を見下ろしていた。
その前には一本の大木が横たわっており中央辺りが抉られ穴が空いていた。よく見るとその穴は切り裂いたような傷が無数に付いており、更には大きな爪が一本刺さったままであった。
そしてその穴は何故か黒く焦げていた。
彼の傍まで辿り着くとイムダは根の間に仕舞っていた大きな茶色の毛皮を拡げてリーシャ達を座らせた。
少し固い毛質だが座ってみるとその厚みでで根っこででこぼこした地面がそれ程気にならない。
「これは百年程前に『天の星飲み』殿が狩ったマンモスという巨獣の毛皮なんですよ」
マンモスは絶滅したとされる太古の巨獣だが、何とこの地には未だ生息しておりフェンリルか達は年に一度マンモスを数頭餌にするらしい。
リーシャも知らない事実で感心していた。
マンモス自体聞いたことも無いアキッレやペロ、ラタトスクは「フェンリルの餌になるようなとにかくデカい獣が居るんだ〜」と曖昧に理解する。
イムダは大きな鉄の皿を根の間から引っ張り出すと重そうなソレを軽々と抱え、『天の星飲み』の乗っている根に近付く。
懐から長細い動物の角を取り出す。
その角は30センチ程の長さで中は空洞になっており、先の部分がカットされていた。
イムダはその角を殆ど予備動作も無く軽く根っこに突き刺す。
マルローンの硬質そうな根に角は三分の一程深々と刺さった。
痩躯のイムダからは想像出来ない力である。
軽い驚きは甘い香りで上書きされてしまう。
突き刺さった角からトロリとした液体が流れイムダはそれを両手で持った鉄の皿で受け止めると辺りに甘い香りが漂う。
あっという間に鉄の皿に並々と溜まったマルローンの樹液。
【治癒】
両手が塞がったままのイムダが木の根に魔法をかけると刺さった角がポトリと抜け落ちその穴がみるみる塞がれた。
その皿を横たわる大木の穴の上に置いたイムダはそこに刺さっていた爪を引き抜いた。
すると穴から火も無いのに熱気が上がる。
その熱は鉄の皿を温めマルローンの樹液がグツグツと煮え始めた。
イムダはその樹液を焦がさぬようにゆっくりと木ベラでかき回す。
蒸気とともに甘い香りが空間を満たしていく。
リーシャはその香りに鼻をひくひくしながら口元をだらしなく開けていた。美少女台無しである。
しかし横を見ればアキッレもペロもラタトスクも似た様な顔になっており、正面の『天の星飲み』も獣面であるため分かりにくいが鼻をひくひくして煮込まれるマルローンの樹液をガン見していた。
鉄の皿からどんどん水蒸気が上がり樹液から水分が少なくなりねっとりとしていく。色も薄い黄色から琥珀色へ変わった。
イムダは先程外した爪を穴の同じ場所に刺した。
穴から熱気は出なくなった。
イムダが『天の星飲み』を見やると彼は頷き魔力が放たれる。
すると何も無い空間からイムダの横にだけ雪が降り積もりあっという間に腰の高さの雪山が出来た。
イムダが手を翳しふわりと横へ流すと合わせて雪山が平たくなった。
その雪の上に煮詰まった琥珀色の樹液を木ベラで掬い直線にこぼしてゆく。
手馴れた様子でイムダは同じ様に樹液で五本の線を描く。
樹液からは甘い香りが漂いリーシャの眼はそれに夢中である。
イムダはいつの間にか準備していた小枝で雪の上に垂らした樹液を絡め、くるくると回しながら掬いあげる。
小枝の先には雪を絡めながら伸ばした樹液がまとまっていく。
一本目が完成するとイムダの眼前に待ちきれなくなって期待に満ちたリーシャが居た。
「近っ!」と思わず心の声を零したイムダはこほんと咳払いして手に持った樹液を絡めた小枝をリーシャに手渡した。
「マルローンタフィーです。どうぞ」
「うむっ!いただこう」
満面の笑みでリーシャはソレを受け取り琥珀色の煮詰めた樹液に齧り付いた。
しゃりしゃりとした雪と少し固まりかけたねっとりとした樹液の独特な食感。
そして何よりとてつもなく甘いのにしつこくない。
仄かに香る木の優しい匂い。
リーシャはあまりの美味しさにくねくねしながら頬張っていた。
アキッレ、ペロ、ラタトスクにもイムダはマルローンタフィーを手渡し彼らがその甘さと食感を堪能している間にリーシャは蕩ける笑顔でおかわりを三度ほど要求した。
『天の星飲み』の分はそうしているうちに雪の上でカチカチに固まっていたが、それはそれで彼はその甘さを堪能し満足していた。
更新が遅い作者ですが頑張ります。
マルローンタフィーの元ネタはメープルタフィーです。
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