45 冬の大地
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あらすじ:双子の烏が仲間になった
『話も済んだようだな。ではそろそろ先に進まねばなるまい』
オーディンはそう言ってリーシャの持つ神滅の雷槍刃先を指で触れた。
すると目が眩むほどの激しい光が放たれた。
リーシャ達は思わず目を閉じてしまう。
光の収束はすぐに訪れる。
リーシャがその大きな瞳を開けると神滅の雷槍のすぐ傍に歪む空間が揺らめいていた。
「...なんだコレ」
明らかに普通では無いその空間の歪みに畏怖を覚えるアキッレ。
頭に瘤と顔に引っ掻き傷という軽傷を負ったペロとラタトスクは先程まで喧嘩していたにも関わらず思わず抱き合った。
「なんにゃ...何かヤバい気配にゃ」
「うぇぇこの歪みからめちゃくちゃ怖い気配びんびんじゃねーか...」
「これが出口か?」
リーシャが一歩進みオーディンの隣に立ち問いかけた。
オーディンはリーシャを一瞥しニヤリと笑う。
やはりめっちゃ悪人面である。
『その通り。迷宮と化したこの地は間もなく消える。お主が我を倒し浄化したおかげでな』
「そうか。ならばこの先にフェンリルの里があるということだな」
『それは自分の目で確かめると良い』
オーディンは吸い込まれるように神滅の雷槍の中へと消えた。
リーシャは振り返りペロとラタトスク、フギンとムニン、そしてアキッレへと視線を向けた。
「さぁ、みんな行こうか」
リーシャは返事を待たずゆらゆら歪んだ空間へと足を向けた。
慌ててペロが追従すると、ラタトスクとアキッレはゴクリと喉を鳴らし恐る恐るその歪みに向かった。
フギンとムニンは人型から烏の姿に変化して迷い無くリーシャの横へと羽ばたいた。
リーシャがその歪みに空いている左手を差し出す。
するとそこから空間の歪みが激しくなり浸食するように広がっていく。
そして強く凍てついた風が吹き抜け思わず目を瞑った。
その強い風は一瞬で身体の芯まで凍てつかせた。
ぶるりと体が震えてしまう。
目をあけると景色は一変していた。
岩壁に囲まれた部屋から一転、リーシャ達は冷たい強風を阻むものの無い小高い丘の上に居た。
草木のない黒い大地はちらちらと降る雪が薄らと積もりはじめている。
空は厚い灰色の雲に埋め尽くされ、丘の周りは背の高い銀色の幹の針葉樹の森に囲まれておりその先には高く連なる白い山脈が見えた。山脈はほぼ同じ高さでまるでこの地への侵入者を拒むかの様にぐるりとこの地と森を囲んでいる。
白い山脈から吹き下ろす強い風は雪を舞いあげリーシャ達を容赦無く凍てつかせる。
呼吸するだけで喉まで凍るように感じる。
息を吐けば白くパキパキと小さな音を立てた。
精霊の囁きのようなその小さな音は吐いた息の水蒸気が凍る音だった。
「ささささささ寒いにゃ!」
「毛皮!!」
あまりの寒さにペロとラタトスクが再び抱き合う。
アキッレも身を縮ませる。
フギンとムニンは寄り添いながらリーシャの肩にとまった。
「サラ」
リーシャが火の上位精霊サラマンドラを呼び出し周囲を暖める。
極限の寒さから逃れた一行はほっと一息ついた。
改めてリーシャ達は周りの景色を見渡した。
「マルローンの森か」
リーシャは銀色の針葉樹を見て零した。
マルローンは銀の輝きを放つ幹で古の時代にエルフが愛した樹木だが、魔法の媒体として非常に優秀で古代魔法文明時代に多くのマルローンが伐採されてしまい、現在この大陸では遥か北の大地に住む氷エルフが管理している森以外失われているはずだった。
因みにハイエルフの里は暖かくマルローンには適さないためにリーシャも初めて見たのである。
「マルローン?」
キョトンと首を傾げるペロの頭を優しく撫でるリーシャ。
「ああ。あの銀色の幹の針葉樹は遥か北の地にしか無い筈の樹木なんだ。もしかしたら此処は大陸の最北かもしれないな」
「そんなとこまで来てしまったにゃ?」
「たぶん、な。そうすると此処は...」
リーシャが言い淀むとサラが少し苦しそうに身悶えた。
『ああぁリーシャすまない...此処はあたしら火の眷属は不味いかも...』
「どうした?」
サラの身体が蝋燭の火のように揺らめく。
『祝福だ...あたしの意識が持って、いかれる程の、大きな火に祝福された存在が、居るみたいだ...それこそ神の呪い、みたいな...しゅくふ、く...』
言葉も途切れ意識を保つのが精一杯のサラをリーシャは精霊界へ戻し、シルフィを召喚し周囲の風を遮断した。
暖かくなった気温が一気に下がり寒くなったが、冷たい風が直接身体に届かないだけでも良かった。
「こんなとこにフェンリル様は本当に居るんでしょうか?」
鼻の頭を赤くしマントで身を包んだアキッレがリーシャに問い掛けた。
「たぶん、な。とにかく進もうか」
リーシャは曖昧に応え一行はマルローンの森へ向かって歩き出す。
ザクッザクッと踏みしめる度に音が鳴る。
土中の水分が凍り霜柱が立っているのだ。
大気の気温と地中の温度に大きくズレがある、とリーシャは感じた。
息が凍る程凍てついているのに大地は微妙に凍りついていない。
本来ならば永久凍土であってもおかしくないのだ。
やがて森の入口に辿り着いた。
マルローンの樹は太く大きく樹齢数百年を軽く超え、中には千年を超えるものは両手を伸ばしたリーシャが仮に10人手を繋いでも届かない程太い。
もちろん森はマルローンだけでなく別の種類の樹木も生えているが、大きく育っているのはマルローンが目立つ。
黒い大地と聳える銀色の樹木。
しばらく歩くと少し空けた所に大きな岩が見えた。
5メートル位の薄らと雪化粧をした大きな岩が3つ。
よく見るとソレは座った人の形に似ていた...いや、人であった。
「にゃにゃ!人にゃ!」
「で、デカい!デカいニンゲンが凍ってるぞ!」
ペロとラタトスクは異様な光景に震える。
アキッレは槍を握りしめた。
「これは霜の巨人」
「彼らは眠っているのだけ」
フギンとムニンは何でもないように言う。
「古代の巨人族だよ。【始まりのひと】とも呼ばれるわたしのようなハイエルフや古代竜と並ぶ最古の種族だ」
リーシャが補足する。
最古の種族とは【始まりのひと】、つまりは神がこの世界の最初に作った種族達。
それがハイエルフや古代竜、そして最古の巨人族である。
最古の巨人族は身長10メートルを超え大きな者は15メートルを超える。
彼らは身体が大きく力もあり知恵も深いが欲深かった。
全てを手に入れようとした巨人族は古代竜とよく争いを起こした為に少しずつ一族の数を減らし厳しい北の大地へと追いやられた。
やがて彼らは滅びる前に長い眠りについた。
身体が腐らぬようにその身に宿す膨大な魔力で周囲を冷たく凍てついた大地に変え、いつか目を覚まし再び世界を手に入れる為に。
そして彼らは目覚めること無く【霜の巨人】と呼ばれ永遠の眠りについたまま膨大な魔力で未だこの地を凍てつかせているのだ。
「へぇ〜。何と言うか眠ってもらって良かった連中にゃ」
ペロはリーシャの話を聞いてぺちぺちと凍っている霜の巨人の大きな足を肉球で叩いた。
「お、おい!目ぇ覚ましたらどおーすんだ!やめろよ!」
ペロの行動に焦るラタトスク。
ニヤリと悪い顔をするペロ。
「ビビってるにゃ〜」
「なっ!?」
ラタトスクは憤慨して霜の巨人の身体を素早く登り頭の上でジャンプして足蹴にする。
「俺様なんてこんな奴こーよ!おりゃっ!おりゃっ!」
「僕だって余裕にゃ!」
ペロも負けじと霜の巨人の頭に登りジャンプしたり引っ掻いたりするが凍り付いた霜の巨人には一切傷も付かない。
二匹の暴走に呆れた様子のリーシャが何かに気付いて表情を硬くした。
肩のフギンとムニンも反応する。
アキッレはその様子に緊張が走った。
「来る」
リーシャが鋭く見つめるその先。
薄暗いマルローンの森から白銀の巨狼とその隣を歩く白い毛皮のマントに身を包んだ青白い肌の痩躯の男がゆっくりと近づいて来た。
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