41 吊るされた男(ハングドマン)
大変お待たせしました。
あらすじ:扉を開けたらボスモンスターはフェンリルに喰い殺された筈の神だった。
リーシャは少し緊張した面持ちで石の巨大樹に逆さに吊るされた男へと歩みを進める。
近付くごとに巨大樹を中心に灰色の雲が渦を巻くように蠢いていく。
一歩踏み出せば地を這う様に広がる毒々しい瘴気が足下から痺れさせる。
無数の鋭い刃を突き付けている様な凍てつく空気が肌に刺さる。
気を緩めれば乾燥した大地がまるで剣山に踏み出しているのではと錯覚してしまう。
怒り、悲しみ、嫌悪、後悔、それ等の負の感情がギュッと凝縮された禍々しい狂気は巨大樹に吊るされた男に近付く程に重くなっていく。
それを垂れ流す巨大樹に吊るされた男は何をするでもなく達ただゆらゆらと揺れながら唯一残された瞳を見開いたまま特に動きは無い。
近付くリーシャを気にもせず視界にも入れていない様に見えた。
リーシャは一度立ち止まり四大精霊達に指示を出す。
精霊達は指示に従い遥か後方で待つペロ達に結界を張った。
リーシャと契約しているペロはまだ自身で結界を張れる程動けていたが、肉体を持つラタトスクとアキッレは中央に比べればまだ薄い瘴気と魔力で震えが止まらずまともに立つ事も困難になっていたのだ。
精霊の結界により外気と遮断されリーシャの純粋な魔力に覆われ少しだけ楽になった。
一方リーシャは着ている服に魔力を通した。
リーシャの着ている服は霊糸という精霊が創り出した糸の一本一本に薄く伸ばされたミスリルをコーティングしたハイエルフだけが編む事が出来る特別製の服である。
魔力伝導率が高く何より軽く決して破れない。
少しの魔力を通す事で様々な効果をもたらす事が出来る。
今回リーシャは魔法での攻撃に対する耐性と瘴気の遮断、精神攻撃の耐性を意識する。
すると淡く薄い光がリーシャを包む。
ふぅと深く息を吐いたリーシャは歩みを進めた。
「嵐と雷の化身。知恵の神オージンよ」
巨大樹の幹から20メートル程離れた位置で吊るされた男へ呼び掛ける。
吊るされた男オージンは無風なのにゆらゆら揺れたまま返事は無い。
そのたった一つの瞳は虚空を見たままだ。
リーシャは声を高らかに更に呼び掛ける。
「獣に喰われ死してなおその御身を晒すは如何なる無念か。
知への欲求を求めるのか、それとも怨念に囚われているのか。
わたしはお主を龍脈へ還す手助けなら出来る。
神の一柱として高潔であった魂魄をこれ以上穢すのは望まぬであろう」
オージンは反応しないが上空の禍々しい黒雲が勢いよく渦を巻く。
そして前触れも無く一閃の雷がリーシャのすぐ目の前に落ちた。
ドゴォンッ!
激しい爆風と眩い閃光にリーシャは左手で顔を守る。
小石や乾いた砂は服に通した魔法障壁が弾いた。
直後に強い風が吹き荒れ上空の黒雲は雷光を伴い始めた。
『我が名はオージン。妖精の一族を導く大賢神である我に虫けらの如き小さき者が我を導く等と妄言を吐く大罪思い知れ』
オージンの右眼があった部分からバチバチと稲妻が弾けた。
ゆらゆらと揺れる様は蓑虫の様で滑稽であるが放たれる威圧がビリビリと空気を震わせる。
直後、細く鋭い稲妻が矢継ぎ早にリーシャへ落ちる。
それをステップを踏む様に軽やかに躱す。
リーシャの中にシルフィが入る。
髪色が緑に変わるとリーシャの動きは目に見えて素早くなる。
精霊と一体化するハイエルフの奥義だ。
「【半神】とはいえ神獣フェンリルに喰われ奪われた力の残照、魂の欠片でありながらとんでもない力だな」
すると正面から突風が襲い掛かる。
風の上位精霊と化したリーシャはそれを無効化する。
今度は右から左から後ろからと出鱈目な方向から突風が襲い掛かる。
荒れ狂う出鱈目な暴風はリーシャの手前で無効化していく。
「まさに嵐の化身か」
そう呟いたリーシャに強い雨がぶつかる。
その雨の一粒は石礫かの如く強い勢いでリーシャの防護膜に突き刺さる。
「ディーネ!」
呼び出された水の上位精霊ウンディーネがリーシャの周囲の雨を支配する。
オージンの創り出した荒れ狂う嵐は大地を削り空を裂く。
リーシャの膨大な魔力を媒介にしたシルフィとディーネは背後のペロ達の結界とリーシャに襲い掛かる嵐の力を無理やり支配下にして護っているが、オージンの支配が強く一時も気を弛めることが出来ない。
前へ一歩踏み出すと閃光が走る。
リーシャは咄嗟に左へ避ける。
ドゴォン!
またも雷が落ちて大地が抉られ焼け焦げた。
ゴロゴロ...
リーシャが刹那走り出すと空から数十の閃光がリーシャを追い大地に突き刺さる。
ドドドドドドドドォォォン
眩い閃光で視界は真っ白になり、空気を切り裂く雷鳴と大地を破壊する爆裂音で聴力を奪われる。
それでもリーシャは襲い来る雷の嵐から舞う様に直撃を避け続けた。
「ぎにゃぁぁっ!」
恐ろしい雷の轟音と閃光に離れた場所で結界に護られたペロ達は頭を抱えて震えていた。
軽やかに身を翻している様に見えるがリーシャに余裕は無かった。
かなりギリギリで直撃こそ避けているものの、雷の熱や破壊された大地が弾幕の様な石礫となり魔法障壁をガリガリと削っている。
何より一つでも直撃すれば死に直結する攻撃を避け続けている精神的疲労が半端ない。
当たれば即死、という訳では無いが大ダメージは必死だ。
大ダメージを受ければ連続で襲い来る雷の嵐を避けるのはいくらリーシャでも不可能だろう。
閃光で焼かれた視界が回復するまでの間、雷を避けながらリーシャはオージンへ近付く方法を考えていた。
近付きさえすればオージンを何とか出来ると確信があった。
しかしこれだけの攻撃をまるで息を吐く様に仕掛けてくるオージンの魔力は一向に減る様子も無い。
そうしてリーシャの視界が回復しオージンの姿を捉える。
オージンの濁った瞳が金色に輝くのが分かった。
無表情だったオージンがニタリと口を三日月の形にして不気味に嗤う。
その直後リーシャの視界が上下反転した。
右に動こうとして左に動いてしまう。
リーシャは咄嗟に霊糸に魔力を流して障壁を強めた。
避けられたはずの雷がリーシャを直撃した。
ドォンっ!
全身に走る電撃の熱量と衝撃。
二発目三発目に備えリーシャは魔力を護りに使う。
ダメージを抱えて視界や感覚が上下反転した魔力まま避けるのは不可能と判断したのだ。
しかしその一撃だけで何故か後続は無かった。
視界と感覚だけを上下反転させる能力はオージンが吊られた状態でいる事で使える術だ。
魔法とは違う呪いに近い古の呪術。
直接的な攻撃では無いが恐ろしい術だ。
強い故に発動の条件にはかなり制限がある。
オージンの瞳を見た時にしか発動出来ず、一定の距離まで離れれば直ぐに解けてしまう。
それを知っているリーシャは距離を取るため後ろへ動こうとした。
その時、黒雲がチカチカと光りながら畝り生き物の様に蠢いた。
全身に悪寒が走り、オージンの瞳が再びリーシャを捉えた。
凶悪な殺気が突き刺さる。
大きく口を開くと魔法文字で埋め尽くされた枯れ枝の様に痩せ細った腕が這い出てくる。
その腕は一本の雷を掴んでいた。
『神滅の雷槍』
オージンが発したそれは放てば必ず敵を討ち滅ぼす必殺の槍の名だった。
お読みいただきありがとうございます(:D)┓ペコリンチョ
最近作者はAmazonプライムでSPECにはまっています。
こんなにはまったのは東京喰種以来です。
現代物ファンタジーもそのうち書いてみたいなぁ。




