40 オージン
あらすじ:迷宮の隠し部屋で発見した禁断の果実はバナナ
禁断の果実は黄金のバナナだった。
房が沢山あるので食べ放題である。
リーシャは近付いて一切躊躇なくもいだ。
茫然とするアキッレ達を余所にリーシャは黄金に輝く皮を剥いて白い実に齧り付く。
「えっ!」
「食べていいのか!?」
「あ、主!?」
振り返ったリーシャはもぐもぐと頬張っていた。
噛むのが遅いリーシャ。
「もぐもぐ」
「「「...」」」
「うっ」
リーシャの動きが止まる。
何が起こるのかと見守るアキッレとペロ達。
四大精霊達は禁断の果実の周りを呑気に浮かんでキャッキャウフフしている。精霊は自由だ。
リーシャは大きな眼をさらに大きく見開いて咀嚼したバナナをゴクリと飲み込んだ。
「美味い」
伝承では禁断の果実は求める力を得る代償に何かを失うらしい。
しかしリーシャに変わった様子はない。
「主、大丈夫にゃ?」
心配そうに駆け寄るペロ。
「ああ、これは嘗ては禁断の果実だったがもう力を失っている。食べても魔力や疲れを回復してくれるくらいだな」
「そうにゃんだ。いきなり食べるから心配したにゃ」
胸を撫で下ろすペロにリーシャは悪戯っぽく笑みを浮かべた。
アキッレ少年はその笑顔に心臓が跳ね上がる。
少年が初恋に落ちる瞬間であった。
そんなアキッレ少年の青春を余所にリーシャは禁断のバナナをもぎまくる。
丁寧に皮を剥いて食べやすいようにしてペロとラタトスクに渡した。
「甘くて美味しいぞ。もぐもぐ。アキッレもこっちへ来て食べてみろ」
リーシャはもう一本もしゃりながらアキッレの分も皮を剥いて差し出す。
呼ばれて駆け寄るアキッレは顔を赤らめながらぎこちなく受け取ろうとした。
このまま受け取ると手が触れ合う、と緊張するアキッレ。
リーシャから見ると何やらあたふたするアキッレに声を掛ける。
「アキッレ」
「は、もごっ!」
返事をしようと口を開けたところにリーシャは手ずからバナナを突っ込んだ。
「大丈夫だ。美味しいだろう」
初恋直後にまさかの初恋相手からのあーんで少年はバナナの味など全く分からなかった。
「主は罪深いにゃ」
ペロはちょっぴりアキッレに同情した。
たっぷりとバナナを堪能し幾つかバッグに仕舞い、リーシャ達は隠し部屋を出た。
相変わらず火の上位精霊サラ無双状態で人喰い鬼達を殲滅しながら先へと進む。
小一時間程進むと索敵担当の風の上位精霊シルフィがリーシャに声を掛けた。
『リーシャちゃん、この先に大きな扉があるわ』
「そうか」
『中からヤバい気配がするけどどうするの?』
「ああ、わたしも感じているよ」
迷宮ではある法則がある。
迷宮に出てくる魔物はボスモンスターの下位種族であったり眷族である事が多いのだ。
ボスモンスターの瘴気から生まれるので似た魔物の方が効率良く強力な魔物を生みやすいらしい。
よってこの迷宮は人喰い鬼が多かったので上位種のオーガキングあたりかと予想を付けていた。
しかし扉の向こうから感じる凶悪な気配はそんな生易しいモノでは無かった。
「あ、主。にゃんだか体の震えが止まらにゃいにゃ」
「や、やべーんじゃねぇ?」
「まさかフェンリル様...?いや違う...」
凶悪な気に当てられガタガタと震えるペロとラタトスク。
神獣フェンリルの眷族であるアキッレも震えながらも槍を強く握り締めた。
『リーシャちゃんどうするの?』
『...迷宮の出口はこの先にしか無いぜ』
『リーシャ様』
『...』
「進むしかあるまいよ。進まねば此処で朽ちるだけだ。ペロ達の守りをしっかり頼むぞ」
覚悟を決めたリーシャに四大精霊達も頷いた。
リーシャが扉に手を伸ばす。
重厚そうな扉はリーシャの魔力に反応し仄かに光り出す。
軽く押すだけでギギギギィと音を立てながらゆっくりと開いた。
果てしなく広い空間に巨大な石柱があった。
いや、それは石で出来た巨大樹だ。
それとも石化した巨大樹か。
石灰色の高さ数百メートルの巨大樹と荒涼とした大地。
迷宮内である筈が、空には嵐の前触れの如き暗い雲が蠢き流れていた。
そしてビリビリと肌を突き刺す強大な気配。
「ペロ!その場で結界を張って動くなよ!」
「分かったにゃ!主は!?」
「わたしは大丈夫だ」
ペロがラタトスクとアキッレが居る空間に結界を張る。
ラタトスクは恐怖の為かもう震えが止まらない。
「な、何だよ...アレはやべぇよ...」
ラタトスクの視線は巨大樹の幹のある部分に向けられている。
「アレは多分オージンだ...フェンリル様が喰い殺した神...」
そう呟いたアキッレ。
それは古来より伝承に聞いた大罪に堕ちた古神の名。
知を得る為に禁断の果実に手を出し、自らを生贄として真理の扉を開きフェンリルに喰い殺された堕神オージン。
フェンリルによって滅ぼされた神の気配であった為に、フェンリルの眷族であるアキッレには本能の様な何かで感じ取れたのだろう。
「オージンか...」
リーシャは巨大樹へと歩き出した。
いつもの余裕は流石に無い。
【神】と呼ばれる存在に相対するのは無謀以外の何者でも無い。
ハイエルフという高位種族であっても【神】の前ではただの人と変わらないだろう。
それでもリーシャは歩みを緩めずオージンが居る巨大樹へと向かった。
石の巨大樹の太い幹には逆さに吊るされた男が揺れていた。
身体は古代魔法文字が刻まれた布でぐるぐる巻きに手足を拘束され痩せ細っていた。
右眼はバチバチと雷が蠢き潰れている。
伸び放題の白い髪を揺らし残された左の眼でリーシャを見ている。
先の尖った耳はエルフ族に良く似ていた。
彼の名はオージン。
嘗て世界樹のエルフ達を導いた族長と呼ばれた男。
エルフから【神】へと近付き上り詰めた男は結局【神】へと至らず【半神】のまま大罪に堕ちてフェンリルに喰い殺された。
彼の神聖はフェンリルに奪われた。
此処に有るのは怨みと力の残照。
その力は嵐と雷の化身。
知を貪欲に求め滅びた憐れな【神になれなかった男】は迷宮を創り出しその力を淡々と蓄えていたのだ。
お読みいただきありがとうございますm(*_ _)m
お話や物語を形にするのは難しいです。
もしも異世界転生したらチートスキル【文豪】とか【画聖】を貰いたい。




