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最後のハイエルフは甘いものがお好き  作者: ほむら


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閑話 在りし日の亡びの里にて

ブクマ100超え感謝のSSです。


リーシャの兄シュナの一人称になります。

また一人の魂が旅立った。


一族みんなで彼の魂が迷わず魂の輪環へと還れる様に精霊達と共に唄い、遺された肉体を地に還すために精霊達と共に舞う。

彼の精霊樹の葉がひらひらと舞い散る。

最後の一枚が落ちるまで唄と舞を捧げる。

永き時を生きた私達の一族はもう何千年も新しい生命が誕生していない。

私が生まれてから一人たりとも、だ。

私達は生まれた時精霊樹の種と魂で結び付き共に育ち共に死ぬ。

精霊樹同士は知識を共有し蓄積して往く。

ハイエルフ一人一人が培った知識や技術、そして精霊樹が見たこの世界の記憶を私達は精霊樹のお陰で失うこと無く紡いできた。

しかし寿命を迎えたハイエルフと共に古き精霊樹がこの1000年の内に半分以上が枯れ散っていた。

つまりは一族の半分以上が魂の輪環へと旅立って行ったのだ。



私達ハイエルフの未来には亡びの道しか残っていないのだろう。


唯一逃れる方法があるとしたら、この里から離れ自然や精霊との生活を捨て他種族の血を受け入れる事。

ハイエルフとしての力は薄まっていくだろうが精霊樹に記憶された膨大な知識や記憶は遺す事が出来るだろう。


だが、この覚悟はどうしても出来ない。

何故ならばかつて里を出たハイエルフの一人が魔と交わり【魔王】となり世界を滅亡させかけた過去があるからだ。


我々はその身に大きな魔力を持っている。

彼は里を出て己の力に溺れたのだろう。

清廉な魂を汚し魂の輪環から外れる事は世の理からの消滅を意味する。

魂の消滅は世界を歪ませる。

特に力を持つ魂ほど大きな影響がある。


だから誰もが亡び往く運命を粛々とと受け入れ変わらぬ生活を送り続けていた。




少しずつ少しずつ一族の魂が還り亡びが近付きつつあった在る日。

年々弱り旅立ちがそう遠くないであろう父と母に呼び出された。


「シュナ。貴方に弟か妹ができたわ」


衝撃だった。

我々は子孫を遺す力が弱い。

個の力が強すぎる為に子を宿す事は奇跡に近い確率なのだ。

しかも両親は既に私を産んでいる。

今まで一人以上子を宿したハイエルフは存在しない。


正に奇跡だった。


いや、私のせいかもしれない。

既に完治しているが私は生まれ付き魔力栓症という病に侵されハイエルフの中でもとても弱い半端な個体であった。

母はそんな私を産んだが為に次の子を宿す力を残せていたのか。

それとも創造の女神エルイーナが気紛れに奇跡を落としたのだろうか。


一族はこの時既に私と両親、あと10人程しか残っていなかった。

数万年の永き時を生きるハイエルフはもう居ない。

生き残った一族では父が一番永く生きている。

まだ歳は一万二千年を超えた程であるにも拘わらずだ。


なのに父より若い世代は父より早く旅立って行った。

若い世代ほど寿命が短くなっているのだ。



元々ハイエルフとしては力の弱い私も一万年も生きる事は出来ないのだろう。


そんな種として終わりを迎える間際に神が気紛れに起こした奇跡。

ハイエルフ最後の希望となる子だ。




数ヶ月の後、母は小さな女の子を産み落とした。

とても可愛らしい女の子だった。


両親は自分達がもう永く無い事を悟って私が名付け親になる様命じた。

私がこの可愛い妹の兄であると同時に母になり父にならなくてはいけない。

両親の分まで愛そうと誓った。



アルティリーシャナンララ。


古代エルフ語で世界、愛、自由を意味する言葉を繋げた名前だ。

彼女がその名の意味を理解した時どの様に解釈しても良い。

ハイエルフとして生きるのでは無く自分自身で世界を、愛を、自由に生きて欲しいと願った。



妹をリーシャと愛称で呼ぶ様になり自我が芽生えた頃には、一族は私とリーシャと母しか居なかった。

リーシャが父の記憶があるかどうかギリギリだろう。


亡くなった父も里のハイエルフ達もリーシャをとても可愛がった。

愛情をたっぷりと受けて育つリーシャは優しい子になった。

ずっと寝たきりの母に気を遣い上手く甘えられずいつも私にべったりと付いてくる。

私に依存しているのが少し心配になったが幼いうちだけだろう。


成長と共に自然を愛し、動物を愛し、家族を愛し、そして精霊を愛するリーシャは誰よりも精霊に愛されていた。


ハイエルフの中でも一際才能溢れる精霊使いだった。



だからこそ私はリーシャの精霊樹の種をこの地で育てさせなかった。



精霊樹を育てるにあたって先人達は大地の底に膨大な魔力が流れる龍脈の上にこの里を作ったが、龍脈の力は少しずつ弱まっていた。

リーシャの精霊樹を育てるくらいなら本当は可能であった。

しかし精霊樹をこの地に植えてしまえばリーシャはこの里から出る事は無いだろう。

いつか精霊樹を育てる地を探す、という里を離れる言い訳をリーシャに作ってやれる。

だから私は心苦しくもリーシャに嘘を付いた。


この地にはリーシャの精霊樹を育てる力はもう残されていない、と。


ハイエルフは魂が穢れる事を本能的に厭う。

生き物を無闇に殺害したり、必要以上に自然を破壊したり、嘘を吐いて人を騙したりすれば魂は清廉さを失うからだ。

勿論同族殺し等は最も禁忌となる。


今は幼くも賢く愛おしい妹は私の嘘にいつか気付くかもしれないがそれでも良いと思った。


リーシャの為ならばこの魂が穢れようが肉体が滅びようが厭わない。

この様な考え方はハイエルフとした逸脱しているだろう。


恐らく私はハイエルフとして弱いだけでなく魂の在り方ですらまともに生まれる事が出来なかった忌み子であったのかもしれない。


そんな私でもリーシャが最後のハイエルフとなった時、里が重き枷にならず自由への翼を広げる理由を作ってあげたかった。



そうして母も亡くなり二人だけで過ごす日々。


リーシャの精霊樹は種のままで共有される全てを識る事は出来ない。

そのなかでもいつか外の世界でも役立つであろうものを与えて来た。


後は切っ掛けをつくればいい。

旅立つために背を押す些細なもので良いだろう。



そんな時ハイエルフの里が隠された森で人族の迷い人が居た。

心地よい魔力を持つ人の良さそうでありながら戦士の魂を持つ人族の青年。


他種族では里を見つける事も出来ない結界の中に敢えて招き入れた。


彼との接触が一つでもリーシャの歩む未来への新しい道が拓かれる事を願って。





私達は大きな力を持つ故に弱く里に縛られ亡びの道を進む道しか選べなかった。



どうかリーシャはハイエルフという種に縛られず、心のまま自由に、広い世界を生き、愛すべきものを見つけて欲しい。



人族の青年と談笑するリーシャの姿を見て私は心からそう願った。



お読みいただきありがとうございます♪


新作「呪われた賢者と白銀の魔女の森」始めました。

同じ世界のお話ですが登場人物は直接絡む事はありません。

宜しければ此方もよろしくお願いいたします┏○ペコッ

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